"プロ野球の監督"は野球人の憧れ。
選手やコーチとして、一度でもメシを食ったことがあるなら、誰しもが指揮官として采配を振るってみたいという。

しかし、実際に監督の職に就くことができるのは、限られた人間だけ。
さらに、"名将"と呼ばれるほどの監督ともなると、その中のほんの一握りに過ぎない。

現在、プロ野球の指揮官は12人。
その現役監督12人を、彼らが就任してから今日までの采配、発言力、人気、人望から徹底比較しよう。

あの監督は名将か凡将か――本当の"監督力"をここで完全査定!

まず、なによりも重要な指標は《采配力》だろう。
チームの構成やスタメン、先発ローテーションなどを決定し、試合展開に応じて適切な手を打って、チームを勝利に導く力のことだ。

この点に秀でていると思われるのは、やはり現在進行形の巨人黄金時代を突き進む原辰徳監督(55)。

そして、昨年、楽天をチーム初の日本一に導いた星野仙一監督(67)が挙げられるだろう。

原監督は、今年で監督生活通算11年目。
過去10年の監督生活で6回のリーグ優勝、3度目の日本一を誇る。

実績は申し分ないが、「あの戦力なら誰でも勝てる」という陰口を叩かれているのも事実。
だが、「チームの要・阿部慎之助が不調と見るや、打順を下位に下げ、4番に新外国人のアンダーソンを据えるなどという荒療治は、誰にでもできる芸当ではありません」(スポーツ紙デスク)
やはり、原監督の采配がズバリ的中しているのだ。

対する星野監督。
実は、昨年まで「リーグ優勝はするものの日本一にはなれない短期決戦の苦手な監督」というレッテルを貼られていた。
だが、昨年の戴冠で、ついに、その不名誉な評価を覆すことに成功。

とはいえ、田中将大が抜けた楽天の戦力ダウンは必至。
だからこそ、日本一を手土産に勇退するという説も強かったわけだが、「延べ16年の監督生活の中で初めて複数年契約を結びました。昨年の優勝がまぐれではないことを証明しつつ、監督生活最後の場と心に決めた楽天に底力をつけ、次の指揮官にバトンタッチしようとしているのかもしれません」(番記者)

ちなみに、両監督の年俸は、原監督が1億6000万円(推定=以下同)、星野監督が1億5000万円と、その実績と連動するように球界トップクラスだ。

そんな昨年のリーグ優勝チーム&監督から目を転じると、広島、阪神、オリックスの3チームが開幕前の予想を覆す好成績をキープしている。

それに伴い、野村謙二郎(47)、和田豊(51)、森脇浩司(53)という、一見地味な監督たちの"手腕"も見直され始めている。
特に、5000万円と全監督の中で最も年俸の低い森脇監督に関しては、「金子、西、ディクソンらを擁した強力投手陣もさることながら、彼らを大胆に使いこなす采配は見事です。親会社が創立50周年の節目の年ですし、期するところもあるでしょう」(全国紙運動部記者)

だが、野球解説者の江本孟紀氏によれば、この3人の前評判は決して高くなかったという。
彼らの力が真に問われるのは、5月20日から始まる交流戦だと言うのだ。

「セ・リーグは、普段やらないDH制を採用しなければならないし、パ・リーグも投手を打席に立たせなければならない。さまざまな場面で監督の"采配力"が試される。交流戦をうまく乗り切れば、彼らに対する評価も、もっと変わってくるかもしれません」

もちろん、"監督力=采配力"という単純なものではない。

ドラフトやトレードで、どんな選手を獲るかという人事的な部分にまで影響力を持つGM的なパワー、言い換えれば、対フロントとの力関係の強い監督が、"いい監督"と見なされる傾向もあるのだ。
これが《発言力》だ。

「たとえば、巨人の原監督は昨年のシリーズが終わるやいなや、大竹や片岡の補強をフロントに進言しました。それまで巨人のフロントは2人の獲得に消極的で、大竹はソフトバンク、片岡は楽天が有力だと言われていたんですが、この原監督の"直訴"が決め手となって、2人を獲得。今となっては、2人の補強が功を奏しています」(前出・デスク)

清武GM時代は、原監督の《発言力》も抑えられていたというが、今は存分に発揮できる状態になっているようだ。

中日・谷繁監督の微妙な立場

ロッテの伊東勤監督(51)も、意外と《発言力》が強い。

「実は、オーナー代行の奥さんと伊東監督の奥さんが、ものすごく仲がいい。こういうフロントとの絆が監督の立場を強固なものにしているんです」(前出・記者)

逆に監督としての《発言力》が低いのが、日本ハムの栗山英樹監督(53)とDeNAの中畑清監督(60)。

「日本ハムは、伝統的にフロント主導のチームづくりをしており、極端に言えば監督は誰でもいい。栗山監督が就任1年目で優勝できたのは、このシステムのおかげですが、フロントが大谷の二刀流にこだわったこの2年は、フロント主導の悪い面が出ているような気がします」(前同)

DeNAは、その日本ハムのGMを務めていた高田繁GMがチームの人事権を掌握し、アメリカ的なチームづくりを目指している。

実際、監督の中畑氏にはなんの権限もなく、開幕投手の決定もフロントの意思が介在したとの説もある。
「今年に入って、ファンも目を覆うようなヘボ采配が頻発、本人も反省の弁を口にしている。一部に解任の動きもあるようです。今のような成績が続けば、途中降板もありえます」(前同)

また、就任1年目、中日の谷繁元信選手兼任監督(43)も発言力は弱い。
「なにしろ、後ろに実質上の総監督と言われる落合GMが控えているし、森繁和コーチは、自分の上の存在としては、落合GMしか認めていない。選手兼任の谷繁にとって、非常にやりにくいと思いますよ」(前出・デスク)

象徴的なシーンがあった。
4月下旬の対阪神戦。
マスクをかぶっていた谷繁がベンチに向かって、なにやら大きなジェスチャーをするところがテレビカメラに大映しになった。

投手交代か、次の投手の準備要請としか考えられない。
しかし、中日ベンチ、つまり、森繁コーチはピクリとも動かず、チームも敗戦。
谷繁監督の微妙な"立場"が垣間見えた瞬間だった。

さて、監督の資質として、重要なものは《人望》だとする説もある。
《人望》のある監督ほど「この監督のためなら」とチームを一丸にまとめやすい、というのだ。

「地味で目立たない」と言われ、チーム成績もそれほどではないにもかかわらず、10年のシーズン途中に監督に就任して以来、指揮官として、その地位に座り続けているのがヤクルトの小川淳司監督(56)。

「昨年のシーズンオフに、監督の続投を決めた理由として球団が挙げていたのが11、12年シーズンのCS連続進出と、選手からの人望が厚いという点でした。つまり、小川監督の人望は、チームのお墨付きでもあります」(前出・デスク)

阪神の和田監督は、コーチ時代は「人望のあるコーチ」として名前を挙げられることが多かったが、監督に就任してからは、少し評判を落としている。

「コーチ時代と言うことが変わったので、慕っていた選手たちも心離れし始めているんです。また、存在感が抜群の掛布雅之氏が、GM付育成&打撃コーディネーターという非常勤スタッフとして参加し、早くも次期監督誕生に向けた空気がチーム内に漂っていますから、相対的に、和田監督の人望は落ちているんです」(番記者)

もっとも、これまで球界で"名将"と呼ばれた人たちには、どちらかと言えば「選手たちには嫌われるタイプ」のほうが多かった。
川上哲治氏しかり、森祇晶氏しかり、野村克也氏しかり。

そう考えると、もしかしたら、《人望》はないほうがいいのかもしれないが……。

求められる勝つ能力と集客力

和田監督同様に、有力な監督後継者がいるために、監督としての立場が危うくなっているのがソフトバンクの秋山幸二監督(52)。
その後継者とは小久保裕紀・WBC日本代表監督だ。

人望の点で小久保監督よりも、少し見劣りする秋山監督は契約の最終年。
「これだけの戦力補強をして、優勝できなかったらクビ確実」という正念場に立たされているとも言えるのだ。

また、11年ぶりに西武で指揮を振るう伊原春樹監督(65)も、このままの低空飛行が続けば、1年契約で早くも終わりとなるだろう。

最後に触れておきたいのが、監督に必要な資質の一つである《人気》だ。
11年当時、中日の落合博満監督が、優勝したにもかかわらず解任された理由は、「優勝しても客が増えない」ということだった。

現在の監督には、勝つ能力と同時に《人気》、つまり、"集客力"も求められているというわけだ。

中畑監督が、新球団DeNAの監督に就任することができたのも、ひとえに、この《人気》ゆえ。

監督未経験ながらも、栗山監督に白羽の矢が立ったのは、日本ハムフロントが彼の《人気》を当て込んでいた点は否定できない。

「とはいえ、人気と実力を兼ね備えた監督と言うことになると、やはり原監督と星野監督が双璧ということになります。栗山監督や中畑監督にも人気があることは確かでしょうが、負けが込み続けると、客からも見放されてしまいます。集客力がなくなったら捨てられる運命にあるでしょうね」(スポーツ専門紙記者)

当たり前だが、なんとも厳しい世界なのだ。

厳しいと言えば、前出の江本氏は現在の監督人事に、こう警鐘を鳴らす。
「どの球団も、監督としての手腕や采配よりも"球団の言うことをハイハイと聞いてくれるかどうか"ということを基準に監督選びをしているとしか思えない。だから、個性やオーラのある監督がいなくなってしまったんです」

長いシーズンは、これからが中盤戦。
日本のプロ野球界をよりおもしろく盛り上げるためにも、12球団の監督たちには、ぜひとも素晴らしい"監督力"を発揮してもらいたい。

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