日本のテレビや週刊誌は先月、ウクライナ情勢も中国の南シナ海でのベトナムとの衝突事件もほとんどそっちのけで、人気歌手ASKAの覚せい剤事件を追いかけていた。人気歌手の逮捕劇だから大騒ぎするのも無理はないが、歌舞伎町で薬物問題をウォッチしてきた私に言わせれば、日本から麻薬がなくならない理由は明らかだ。

それは刑罰が甘すぎるから。日本で覚せい剤を営利目的で密輸しようとしても、無期か3年以上の懲役にしかならない。ところが、わが中国の刑法には、覚せい剤やアヘン、大麻を一定量以上密輸すれば、「懲役15年、無期懲役または死刑」と書かれている。2010年に麻薬密輸容疑で有罪になった日本人が中国で死刑になったニュースは、まだ読者諸兄の記憶に新しいだろう。

ただ、中国では麻薬中毒者の場合、刑務所での処罰より、病人としてリハビリ施設での治療が優先される。それに対し、密輸を特に警戒するのは、中国が170年以上前にイギリスから売りつけられたアヘンをきっかけに欧米列強の侵略を許した歴史ゆえだ。

とはいえ、社会主義でおカタいイメージの現在の共産党政権下でも麻薬は蔓延っている。そして、中国には70万人以上のエイズ患者がいるが、感染者のかなりの部分を麻薬中毒者が占める。彼らは、他人と注射器を使い回すからだ。麻薬の製造が盛んな東南アジアの「金三角(ゴールデントライアングル)」と接する雲南省へは、大麻やコカインが盛んに密輸されている。

 自分は麻薬とは関係ない、と高をくくっている日本人も、中国の麻薬問題とは無関係ではない。海外の空港では、大量の荷物をかかえた中国人旅行者が、荷物の少ない外国人旅行者に"荷物持ち込みの枠を自分に譲ってくれ"と持ちかけてくるケースがよくある。日本人は親切心からついOKしてしまう人もいるが、この荷物の中に麻薬が入っていたら……。次に死刑判決を受けるのは、あなたかもしれない。


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