自分は健康なのか。
それとも病人なのか。
ハッキリとわかる痛みなどの自覚症状がなければ、それを自ら判断するのは難しい。

それだけに、数字でハッキリと示される健康診断の結果が気になる。
数値に一喜一憂してきた読者諸兄も多いことだろう。

だが、その健康基準値自体があいまいで、数字に確たる意味がなかったとしたら――。

今、健康診断の"新基準"が話題だ。
はたして
「血圧147は健康」
か?
その是非を巡り、医学界やマスメディアはもちろんのこと、高血圧に悩む人やボーダーライン上の数字に翻弄される健康な人までもが熱い議論を交わしている。

そこで今回、そんな高血圧論争に完全決着をつけるべく、緊急取材を敢行。
これまで信じられてきた高血圧に対する間違った常識とは、今日でお別れだ!
※※※
WHO(世界保健機関)によると、25歳以上の3人に1人が高血圧だとされ、日本でも、高血圧だと言われた人の割合が全男性の35・7%(厚生労働省の2012年「国民健康・栄養調査」)に及ぶ。

今や代表的な"現代病"となった高血圧だが、今年4月から大論争が沸き起こっている。
日本人間ドック学会が、健康保険組合連合会と共同で、新しい高血圧の基準値を公表したからだ。

「現在の基準値(正常値)は、2008年に特定健診(いわゆるメタボ検診)が始まった際、高血圧学会が定めたガイドラインを基に、厚生労働省が定めたものです」(全国紙科学部記者)

収縮期血圧("上"と呼ばれる数値)129以下、拡張期血圧("下"と呼ばれる数値)84以下が、その基準値だ。

「ところが、人間ドック学会が発表した数値によると、147以下(収縮期)、94以下(拡張期)が新しい基準値とされたんです」(前同)

そうなると黙っていられないのは、自分の血圧が、人間ドック学会が示した新基準値と現在の基準値の間に収まる人たち。

収縮期で「130(現在の基準値)~147(新基準値)」、拡張期で「85(同)~94(同)」の範囲に入る血圧だ。

降圧剤などの治療薬の市場規模はおよそ9000億円と言われ、医療費の削減に直結する話だけに、ニッポン人としても気になるところだ。

特に論争になっているのは収縮期血圧。
正常な血圧の上限は、これまでどおり129でいいのか、それとも147でも健康と言えるのか。

ロダンの『考える人』のように、じっくり考えたいところだ。


上限は"129か147か"

「もちろん、人間ドック学会が新基準値を発表したからといって、高血圧治療の目安が緩和されたわけではありません。しかも、新基準値は超健康人と呼ばれる人たちを基準にした数値。新基準値は、人間ドックを受診した150万人の中から、過去に大病を患っておらず、酒もタバコもほとんどやらないという人をピックアップ、さらにそこから、1万5000人ほどに絞り込んだ人の血圧を基に示されています。つまり、血圧147までなら、何の病気もせず、元気に健康な生活を送ることができると保証されたことになります」(同)

この新基準を打ち出した人間ドック学会に対して、当然のことながら、現基準値の"お目付け役"でもある高血圧学会は猛然と反発した。

新基準発表のほぼ2週間後には、
〈(新基準値は)本当に「正常」と言えるか不明〉
という声明を出すに至る。

「そのあとも、"129か147か"という問題は、医学界全体に波紋を広げ、今なお熱い論争が続いています」(医療雑誌編集者)

そこで、本誌は論争にピリオドを打つべく、高血圧についての知識と臨床経験豊富な"論客"らに取材した。

さて、"ファイナルアンサー"を求める本誌に対して、専門家はどう答えてくれるだろうか。

そもそも高血圧とは何なのか。
まずはそこから、この問題に迫りたい。

もちろん、高血圧という病気はない。
あくまで血圧が高い状態のことを言う。

本誌の好評連載「ミラクルおやじ塾!」や『「空腹」が人を健康にする』などのベストセラーで知られる「ナグモクリニック」の南雲吉則院長は、
「同じ成人病でも糖尿病などと違い、高血圧というのは、あくまで一つの症状。もっと言うと、単なる検査数値にすぎないってことを忘れては困る」
として、こう続ける。

「血管だって、いつまでも若々しいままでいられないでしょう?体が老化するように、血管も年を重ねると硬くなる。そうなると心臓は、圧を強めて、全身に血液を送り出さなきゃならない。どうしたって、血圧は高くなるのです。たとえば、毎日、山の上の段々畑を耕している老人の血圧を薬で下げたら、そんな肉体労働は続けられなくなる。だから、高血圧というのは、老化に対応して、体が自然に反応している状態だと考えるべきですね」


数値目標にこだわり過ぎるな

なるほど。論争の結論にたどり着く前に、目からウロコが落ちた思い。
とはいえ、高血圧になると、脳卒中や心筋梗塞、動脈瘤(りゅう)などのさまざまな要因を引き起こすと言われている。

6月20日に小社から刊行される『あなたの降圧剤はやめられる――高血圧の疑問と意外な真実62』の著者で、大阪樟蔭(しょういん)女子大学の石蔵文信教授は、過度な高血圧は危険だという一人。

「心臓は1日に10万回鼓動していますからね。たとえるなら、水鉄砲の小さい穴からそれだけの回数、水を打ち出すようなものです。血圧が高くなると、その分、水鉄砲に負担がかかります。そのうちに水鉄砲(心臓)が壊れてしまいます。高血圧によって、脳卒中や心臓病で死に至るリスクが高くなることは、統計的に見ても明らかです」

ただし、脳卒中や心臓病以外の病気も含めた全死亡率は、高血圧であろうがなかろうが、大きな差はないと言う。

つまり高血圧は、一部の病気による死亡の危険性を高めるものの、世間で言われるほどの「ワル」かというと、どうも、そうではなさそうなのだ。

以上の話を前提に収縮期血圧の上限について話を聞くと、両者ともほぼ同意見。

まず、南雲院長は、
「数値目標(基準値)に、こだわるな」
とキッパリ!

一方の石蔵教授も、
「血圧の数値だけを見て、一喜一憂することはありません。高血圧学会も、75歳以上については150以上(収縮期)でも構わないことにしています。問題は74歳未満の中高年ですが、140までなら、リスクは上がるものの、すぐ治療するほどではないと考えています。その140以上から160まではグレーゾーンだと考えたらいいでしょう」

そうなると、新基準か、それとも現在の基準値かという問題に、おぼろげながら答えが見えてくる。
まずは、二者択一にこだわらず、もう少しワイドに考えたほうがよさそうだ。

ところで、高血圧が気になりだす60歳を基準にして見てみると、高血圧の上限値は、00年の139から04年には129へと厳しくなり、今年一転して、人間ドック学会から、目安としてながら147という新基準が示された。

わずか14年の間に基準値が上がったり下がったりしたことになる。
このように数値に翻弄され続けている高血圧だが、その裏側には、
「高血圧の患者を増やそうとする日本医師会や降圧剤を売りたい製薬業界、逆に医療費の負担を軽減したい健康保険組合の思惑が見え隠れしています」(南雲院長)
と言う。

この現象は"医師会・製薬業界VS健康保険組合"という対立構造が生み出した結果だと言うのだ。

石蔵教授も、
「(高血圧が)カネを儲けたいメーカーと、カネを払いたくない側とのケンカの道具にされています」
と憤る。

そのケンカのあおりを受けて、降圧剤を処方されたり、されなかったりしたら、患者こそ、いい迷惑。
新旧ともに基準値が信用できないとしたら、あとは自分で考えるしかない。

「もちろん、血圧が160以上まで上がったら降圧剤を使う必要はあります。グレーゾーン(140~160)にある人の場合、まず降圧剤を使ったほうがいいかどうか判断し、そのあと、使用した場合でも、どの程度まで血圧が下がったら使用をやめるか、減圧目標を設定することが大切です」(石蔵教授)

たとえば、血管が収縮しやすい冬に血圧が高くても、暖かくなると血管が弛緩して血圧も下がる。


夏場の降圧剤使用には注意を

「だから冬場に150だった血圧が、夏場に130まで下がるケースもあります。ところが、降圧剤を飲む必要がなくなっても、そのまま処方される場合もあるようです」(前同)

そうなると、逆に血圧が下がりすぎて体調不良に陥るケースも出てくる。
低血圧になると、心臓が全身へ送り出す血流が弱くなり、脳への血液量が不足して、めまいや立ちくらみなどの症状を起こしやすくなるのだ。

アメリカの研究データによると、高血圧患者の死因で意外に多かったのが、転倒や転落などの事故。

降圧剤の使用により、頭がボーッとして事故につながる可能性は否定できない。
また、降圧剤の中には脱水症状をもたらすタイプもあるという。

「最近、熱中症にかかるケースが急増しているでしょう。もしかしたら、降圧剤の副作用が影響しているかもしれません」(前同)

猛暑のせいだけではなく、降圧剤の副作用が脱水症状を引き起こすというなら、これから迎える夏場の降圧剤使用には注意しなければ。

さらに怖いのは、
「降圧剤が免疫力を抑制すること。感染症にかかったり、がんになったりする危険性があります。特に高齢者の場合、肺炎にかからないように注意しなければなりません」(南雲院長)

きっこのほか、カルシウム拮抗(こう)薬というタイプの降圧剤を使用する際には、飲み合わせにも注意したい。というのは――。

一般に薬は、肝臓などで代謝(消化)されて、その効力を一部失うが、たとえばグレープフルーツジュースには、体内の代謝力をさらに弱める働きがある。

このため、グレープフルーツジュースを飲んだら、そのあと十数時間はカルシウム拮抗薬を飲んではいけないと言う。
血圧が下がりすぎて危険な状態に陥ることがあるためだ。

その降圧剤といえば、昨年、大手製薬会社ノバルティスファーマが販売する降圧剤の臨床データに捏造(ねつぞう)が発覚。
画期的な新薬と言われて高血圧市場に颯爽(さっそう)と登場したものの、患者に不信感を植え付けるだけの結果に終わった。

どうも降圧剤は、これら副作用ばかりが気になるが、
「そもそも、人工的に血圧を下げようという発想が間違っています」
と言う南雲院長は"降圧剤否定派"の一人。

それでは、どうしたらいいのか。
「何と言っても生活改善です。血管を若返らせるためには、早寝早起き。食べ過ぎないでお腹をグーグー鳴らすこと。野菜や果物・魚を皮ごといただくことですね。タバコと肥満は高血圧にとって"ワースト2"であることを忘れてはいけません」

アルコールはどうなのか。
「1日にワイングラス2杯までは血圧にも良い」(前同)
適量であれば、文字どおり"百薬の長"!?


これがファイナルアンサー!

さて、高血圧と言えば、塩分の摂り過ぎに注意しなければ、と思いがちだが、実際にはどうなのだろう。
「実を言うと、塩分が高血圧に影響しているという医学的なデータは、それほどないんです。塩分が高血圧に関係していたとしても、全要因のうちの2~3割だろうという研究成果もあります」(石蔵教授)

もちろん、塩分の摂り過ぎは良くないが、"塩分悪玉説"を全面的に信奉する必要はなさそうだ。
むしろ、塩分は総摂取量が大切だとか。

いくら減塩食材を使っていると言っても、食べ過ぎたら意味がない。
それより、普通の塩分の食材を使っても、少しだけ食べるようにしたほうがいいと言う。

石蔵教授がこう続ける。
「とにかく一番悪いのは、おいしくない料理を食べること。塩分を気にしすぎて料理を薄味にすると、おいしくありません。すると、それがストレスとなって血圧が上がってしまいます」
どうやら、このストレスが血圧上昇に大きく関与しているようだ。

「診察前に血圧を測って150と高めだった人が、あとでもう一度測定したら、130まで下がっていたという例も珍しくないんですよ」(前同)

診察前には誰もが緊張するもの。
ちょっとした緊張で、20~30はすぐに上昇してしまうのだ。

「私は診察に30分ほどかけるようにしています。患者さんも私と話しているうちに緊張が解け、正常な血圧を測ることができるからです。血圧にとってストレスは大敵なんです」(前同)

こう見てくると、高血圧論争が沸き起こるなか、高血圧に悩む中高年にとっての"ファイナルアンサー"は、この3つ。

1.血圧が高いといっても、160以上で特別な症状がない限り、慌てて降圧剤を服用しなくても大丈夫。

2.生活習慣の改善やストレス解消で降圧効果が期待できる。

3.降圧剤を服用する場合でも、減圧目標を設定しておくこと。

――以上のポイントを守れば、もはや論争などは無関係。
高血圧は必ず克服できるはずだ。

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