人生に役立つ勝負師の作法 武豊
新しい2歳馬との出会いの季節です



皇太子さまが観戦された今年のダービー。7123頭の頂点に立ったのは、ノリさん(横山典弘騎手)とワンアンドオンリーのコンビでした。初めてダービートレーナーとなった橋口弘次郎先生、昨年のキズナに続き2年連続でダービー馬を生産したノースヒルズ、前田幸治オーナー、そしてすべての関係者、ファンの方に、この場をお借りしてお祝いの言葉を贈ります。

本当におめでとうございます。

来夏は、父ハーツクライが成しえなかった夢……イギリスの「キングジョージ6世&クイーンエリザベスS」に挑戦するプランがあるそうです。また一頭、世界に挑戦する馬が出てきたことに競馬サークルの人間として、大きな拍手を贈りたいと思います。

6度目の栄冠を狙い、ひそかにイケるという手応えだったトーセンスターダムは、直線半ばで急に内によれ、制御不能のままラチに激突。16着に終わりました。

道中2番手を追走。直線に入っての手応えもよく、このままいけば、優勝したワンアンドオンリー、2着に惜敗したマサヨシ(蛯名正義騎手)のイスラボニータとの叩き合いになる……と思った矢先のアクシデントだけに、悔しさだけが残る結果でした。

しかし、です。10回騎乗すれば8回は負けるのが騎手の仕事。いつまでも引きずらず、潔く負けを認め、前進する――それが、勝負師としての鉄則です。

競馬の世界では来年のダービーに向けて、すでに2歳の新馬戦がスタートしました。来年こそ――この気持ちを大事に、また一年頑張ろうと思います。

2歳馬との新しい出会いは、何度経験しても、やはり、心がときめきます。

どんな乗り心地だろう。性格は? 搭載しているエンジンの性能は!? 来年のダービーをにらみ、騎手として少しでも力をつかみたいところですが、同時にどんな馬にとってもデビュー戦は一生に一度。できれば勝たせてあげたいというのが騎手としての思いです。

父サンデーサイレンス。母ウインドインハーヘア。2003年にデビューしたブラックタイドもそんな一頭でした。いや、彼の場合は勝たせてあげたいという僕の気持ちなど関係なく、自らの力でライバルをねじ伏せ、クラシック戦線に名乗りを上げました。

彼を一目見たときに感じた大物感や雰囲気の良さは、今でも覚えています。乗り心地も抜群で、ひょっとしたら、スペシャルウィークに並ぶくらいの馬になるかもしれない……そんな予感さえ抱いていました。

3歳の春に屈腱炎を発症し、最後まで思うような結果はあげられませんでしたが、ブラックタイドがいたからこそ、翌年、全弟である、あのディープインパクトにめぐり会うことができたのだと思っています。

今年はどんな馬たちと出会えるのか。できれば、僕の片思いではなく、相思相愛の仲となり、ダービーまで無敗でいけるような、そんな運命の出会いがあることを期待しています。


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