発生から1か月が経ってもなお、波紋を広げ続ける歌手のASKAこと宮﨑重明容疑者(56)の覚醒剤事件が、我々一般市民に問題を提示している。

「この事件をきっかけに、当局が芸能界の"クスリ汚染"を一掃しようと捜査、芸能事務所などは戦々恐々と言われていますが、違法薬物が蔓延(まんえん)しているのは芸能界だけではありません。昨今の社会環境は、我々一般人でも容易に入手可能です。そのため、薬物と縁がないと思っている人でも、知り合いに複数の使用経験者がいると言われています」(全国紙社会部記者)

実際、社会安全研究財団の2003年公表のデータによると、成人の覚醒剤乱用者は推定230万人。
なんと、国民のほぼ40人に1人が"シャブ漬け"になっているというのだ。

「13年の厚生労働省の調査でも、違法薬物の使用者は40人に1人、違法薬物の使用を誘われたことのある人は20人に1人という結果が出ました。そのデータによると、覚醒剤の使用者は200人に1人ですが、この10年で合成麻薬MDMAなど乱用薬物の種類が増えたことや、政府の調査に違法行為を正直に答えるかということを考慮すれば、実態はもっと悪化していると考えるのが自然です」(前同)

つまり、何食わぬ顔で通勤電車に揺られるサラリーマンの中にも、何人もの薬物乱用者がいる計算になるのだ。

実際、薬物の危険が身近に迫っている現実は、事件の多発にも表れている。

5月だけでも、福岡県内の小学校校長(覚醒剤所持)、千葉県内の小学校教諭(大麻所持)、静岡県警の巡査部長(覚醒剤譲渡)、神奈川県警の巡査部長(覚醒剤使用)、大阪市消防局の消防士長(覚醒剤使用)、都内の会社員(指定薬物所持)らが逮捕されている。

教諭や警察官、消防士のような立場の人間が大勢逮捕されているという実態は驚愕のひと言だが、さらに特筆すべきはその年齢だ。

「福岡県の小学校校長と大阪市消防局の消防士、都内の会社員はASKAと同じ50代、神奈川県警の巡査部長が40代というように、中高年の薬物乱用者が激増しているんです。若者の犯罪というイメージが強いと思いますが、実態は違います」(同)

実際、警察庁発表のデータでは、13年の覚醒剤事件の摘発者数は減少したものの、50歳以上の年代に限ると、前年に比べて約6%増加しているというのだ。

その理由の一つが、再犯率だという。
「20代の再犯率が39%であるのに対し、50歳以上では79%という驚異の数字。つまり、50歳以上で覚醒剤の味を覚えてしまうと、断ち切るのはかなり難しいということです」(同)

薬物依存者の民間リハビリセンター『日本ダルク』代表の近藤恒夫代表は、その著書『拘置所のタンポポ薬物依存再起への道』(双葉社)で、
「(薬物は)一回でも多すぎ、千回でも足りない」
という言葉を紹介しつつ、こう述べている。

「覚醒剤は一度やってしまうと、脳にその快感、高揚感や全能感がしっかり刻み込まれてしまい、その感覚は絶対に一生消えることはない」

中高年乱用者の中には、若い頃から使い続ける常用者もいるが、問題は中高年になってハマるケースだ。

日本ダルクの本部ディレクターの三浦陽二氏は、次のように解説する。
「仕事依存の状態にある中高年が、リストラなどで依存するものがなくなると、別に依存できるものを求めて薬物に走るケースが多いですね。特に、真面目な性格や完璧主義の人が陥りやすい傾向があります」

こうした依存対象の喪失に加えて、中高年特有の理由もあるという。
「若者に比べて、薬物を購入できる金銭的余裕があることも、その一つ。また、体力の減退や病気の発症が目立つ年代になり、その苦痛から解放されたいと願って使用に踏み切る人も多い」(捜査関係者)

とはいえ、違法薬物に縁のなかった一般中高年者が、どのようにして薬物を入手できるのだろうか。

「最近、目立つのがインターネットを通じての購入だ。たとえば昨年8月、堺市在住の夫婦がネット掲示板で覚醒剤密売を持ちかける書き込みをしたとして、逮捕された。彼らは、"アイス"などの隠語で密売を図り、"大阪全域即手渡し"と書き込んで計68人に198万円分の覚醒剤を販売していたんだ」(前同)


誰でも簡単に入手可能な日本

ネットと言うと、普段、接する機会のない人にとっては遠い話に聞こえるかもしれないが、その魔の手は繁華街にも無数に存在する。

しかも、都内で活動する売人・石橋氏(仮名)によると、誰もが知るような繁華街だけで"売り"が行われるわけではないという。

「東京で覚醒剤って言うと、六本木とか新宿、渋谷って想像するだろうけど、ほかにも郊外のターミナル駅や、そうではない街にも売人はいるし、むしろ、そういう場所でこそ中高年が引っかかりやすいな」

すでに酒が入った酔客をターゲットにして、近づいていくそうだ。
「"これから女の子と遊びませんか?"って声をかけるんだよ。当然、客は俺をフーゾクのキャッチとしか考えないだろ。それで客が乗り気だと思ったら、"バイアグラより強烈な精力増強剤があるんですよ。それ、サービスしときます……"と言って、客を人目のつかない場所に誘い込むんだよ」(前同)

すでに賢明な読者諸兄はお気づきだろう。
"バイアグラより強烈な精力増強剤"の正体こそ、覚醒剤なのだ。

「そこで"炙(あぶ)り"で客に吸引させるんだよ。もちろん、ただの精力剤とは体のリアクションが違うんだけど、何しろ相手は酔っ払ってるし、バイアグラだって軽い動悸がすることはあるから、ごまかせるんだ。その後、知り合いのキャッチのルートで店を案内し、"シャブセックス"を堪能させればOK。そして、これこそがリピーターを得る最大のポイントだ」(同)

ASKAの逮捕の決め手の一つが、同じ容疑で逮捕された栩内(とちない)香澄美容疑者(37)宅のゴミ袋の精液付きティッシュの検査結果だったようにクスリとセックスは密接な関係にあるという。

「オレが思うに、シャブはセックスのためにあるんだ。普通にするだけでも気持ちいいセックスは、クスリを使用することで何十倍もの快感を得られる。これを一度知ってしまえば、どんな人間だって"もう一度"って思うよ」(同)

石橋氏が、客を見送る際に
「何かトラブルがあればこちらに連絡ください」
と電話番号を渡しているのは、その後のつながりを保持するためだ。

「数日待てば、結構な確率で"精力剤が欲しい"って連絡が来るよ。当然、その後はエンドレス。客との電話にはプリペイド式携帯電話を使い、こまめに電話番号を変える必要はあるけど、気をつけるのはそれぐらいだよ」(前同)

多くの人が繁華街で接したことがあろう黒服に紛れて近づいてくる売人がいるとは……。

元刑事で覚醒剤犯罪に詳しい国際犯罪学者の北芝健氏も、下半身とクスリの関係に警鐘を鳴らす。

「一時的にストレスが消え、年齢とともに衰える下半身のパワーも回復する覚醒剤は、中高年にとって、まさしく無敵の感覚を呼び覚ましてくれる存在になってしまっているんです。そのため、ED(勃起不全)の症状に悩んでいる人が違法薬物に走るケースも多いですよ」

繁華街に隠れているクスリの売人は、街頭売りだけではない。

「たとえば、親しくなったキャバ嬢や、何回か指名することで顔見知りになった立ちんぼの売春婦やデリヘル嬢から譲り渡されるケースもあるようですね」(前同)

つまり、「入手ルート」などという大層なものがなくとも、覚醒剤は手に入れられるのだ。


薬物専用の自動販売機も出現

そのうえ、最近ではその形状すら、一般人が抵抗感なく服用できるように変化しているという。

「最近の覚醒剤は、従来の粉末状のものに加えて錠剤タイプも出回っています。小分け用のビニール袋に梱包してポケットに入れておけば、胃薬などと見分けがつきませんよ」(同)

さらに、ここ数年で爆発的に普及した「脱法ドラッグ」も、薬物の危険性を高めている大きな要因だ。

「効果や中毒性は違法薬物と同じながら、法律に抵触しないよう常に最新の化学式に変えられた脱法ドラッグは、街なかで大きな看板を掲げて売られています。厚労省が把握するだけで全国に約400店舗あり、脱法ドラッグ専用の自動販売機まで設置されていますよ」(夕刊紙記者)

先のデータにもあるように、一度使用すれば抜け出すことが困難ながら、年々容易になっている薬物世界への入り口。

この"誘惑"をどう絶ち切ればいいのか、前出・三浦氏はこう話す。
「たとえば野球チームに所属していて、自分自身が薬物にハマって試合に出られなかったら、他の8人のメンバーや監督に迷惑がかかりますよね。ですから、自分がクスリをやったら誰かに迷惑がかかるという状況を作るべきです。会社を退職した後も地域社会の団体に所属して、何らかの役割を持ち、"自分がクスリをやったら悲しむ人がいる"と思ったら、クスリに手を出せませんよ」

誰でも"ASKA"が身近にいるこの時代、自分一人で生きるのではなく、周囲の人との良好な関係を築くことが大事なようだ。

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