1973年に封切られたヤクザ映画の傑作『仁義なき戦い』。
戦後の広島を舞台に、ヤクザ社会の激しい抗争を描いた同作は大ヒットを記録。
すぐさま、『広島死闘篇』『代理戦争』『頂上作戦』『完結篇』と、全5作が2年の間に製作された。

2009年にキネマ旬報が実施した〈日本映画史上ベストテン〉では、1作目が堂々第5位にランクイン。

封切りから40年が経過した現在も、ビデオ店では高いレンタル率を誇っている。

「『仁義』の魅力はなんといっても、あのセリフ回しですよ。広島弁でまくし立てるあのセリフのパワーは出色。シリーズの脚本を書いた笠原和夫さん(『完結篇』のみ高田宏治)も、そこを意識していたはずです。仁義なき戦いが標準語だったら、あるいは魅力あふれるセリフの数々がなかったら、大ヒットはなかったかもしれません」(映画評論家・秋本鉄次氏)

わが国には古来"言霊の思想"が息づいている。
言葉は魂、言葉は力。
『仁義』のセリフには、そんな魔力があるのだという。

『心を奮い立たせる「仁義なき戦い」の名セリフ』(双葉新書・発売中)の著者・山平重樹氏が言う。

「封切られた当時、私の周りのワル仲間は皆、ハマり、広島弁で映画のセリフを真似したもんですよ。『仁義』における笠原和夫の脚本は、一つ一つのセリフに至るまで完璧に研ぎ澄まされた感があります。プロデューサーの日下部五朗が言った"広島弁のシェークスピア"は、ピッタリの表現ですね」

以下、男に生まれたからには一度はオフィスで使ってみたい『仁義』の名セリフを振り返ってみよう。

「職場で使う場合は、その職場環境に応じて2つ、オススメがありますね」
と分析するのは、『仁義なき戦い浪漫アルバム』の著書のある杉作J太郎氏。

「暴君のような上司が君臨しているため、職場がギスギスしている。そんな会社の人にはぜひ、〈御輿が勝手に歩ける言うんなら、歩いてみいや、のうっ!〉を使ってもらいたいですね。イヤミな部長あたりが、理不尽なことを言ったときに、これをピシャリ。ポイントはなるべく皆のいる前で、声を荒げず冷静に言うことです。そのほうが堂々としていて、重みがある。女子社員の評価も上がるはずですよ!」(杉作氏)

この〈御輿が~〉は、ファンの間で最も人気が高いセリフのひとつ。
第1作で松方弘樹扮する若頭が、金子信雄扮する老獪な組長に向かって発したものだ。

本誌が推奨する使用例は、〈部長はデスクにへばりついているだけだから、いいですよね。外回りして汗かいているのは自分らですから。御輿が……(以下略)〉

「オフィスがそこそこ快適だという場合は、『頂上作戦』で三上真一郎さんが言う〈ここらで男にならにゃあ、もう舞台は回って来んど、おうっ!〉がオススメです。サラリーマンの世界は、出世のチャンスなんて一生に何度もありません。このことは皆、肝に銘じておくべきです」(前同)

このセリフ、劇中では三上扮する川田組組長が、小倉一郎扮する駆け出しの子分の肩を抱きながら言う。

「殺しをけしかけているシーン。売り出し中のヤクザには、なんとも悪魔的な囁きですよ」(前出・山平氏)

このセリフ、2通りの使用法があるという。
「中間管理職の人は、煮え切らない部下にハッパをかける意味で使いたいですね。仕事だけじゃなく、草食系でオネーちゃんを口説けずにいる若手にも効果的です。自分にチャンスが回ってきたとき、誰もこう言ってくれない場合は、自分で自分に言ってみるのもよいでしょう」(前出・杉作氏)

山口県出身で、広島弁には馴染みが深いと言う前出の秋本氏が激賞するのが、〈牛のクソにも段々があるんで!〉(『完結篇』)だ。

「これは最高のセリフですね。宍戸錠さん演じる落ちぶれた大物ヤクザが、自分を軽んじられたことを憤って口にするセリフです。いくら落ちぶれようと、お前みたいな小物にバカにされる筋合いはないという意味です。それを"牛のクソ"でたとえるセンスが素晴らしい!」(秋本氏)

このセリフは台本にあったものではなく、
「撮影現場で深作欣二監督と宍戸さんが話し合って生まれた」(前同)
んだとか。

本誌推奨の使用例は、〈俺はお前の直属の上司だぞ。それなのに直接、部長のところにお伺いを立てにいくのはいかがなものか。牛のクソ……(以下略)〉


『仁義』は効果絶大のサプリ!!

『仁義』のセリフには、ほかにも会社で使えそうなものが目白押しだ。

自動車や電機メーカーでは、技術系の職場と営業部門は仲が悪いという。
技術系の人間は、営業畑の人間に口を挟まれることを極端に嫌うからだ。

そんな環境で使えるのが、これ。
〈そっちらとは世界が別でえっ!知らんことは黙っとれや!〉(『頂上作戦』)
これで雑音はピシャリ?

相手が関係修復に、飲みに誘ってきても、〈そっちとは飲まん!〉(『完結篇』)と徹底抗戦するのが、男気リーマンだろう。
社内での馴れ合いは、百害あって一利なしというものだ。

仕事で全国を飛び回っていることが多い出張族にオススメしたいのが、〈わしゃ、旅打ってくるけん〉(『仁義なき戦い』)
なんだか粋ではないか。

この口上、本社から地方に飛ばされたときにも使える。

ヤル気のない部下を持ってしまった役員には、次のセリフがイチ押し。
〈枯れ木も山のにぎわいじゃがのう、このぶんじゃ、枯れ木に山がつぶされるわい〉(『頂上作戦』)

働かざる者、食うべからず。これ以上ない痛烈なイヤミだ。
役員に、こう言われて引き下がっていては男がすたる。
すかさず、〈おどれも吐いたツバ飲まんとけよ!〉(『頂上作戦』)と返したい。

さらに、役員に「カネになる企画はないのか?」とネジ込まれたら、満を持して、あの名啖呵をお見舞いしてやろう。

〈タマはまだ残っとるがよう〉(『仁義なき戦い』) この場合、タマはビジネス企画のこと。
劇中では、怒りに燃える主人公・広能昌三(菅原文太)が、45口径コルトを位牌にブチ込みながらスゴむシーンで使われている。
『仁義』シリーズ屈指の名シーンである。

「実は、私が本当に一番好きなセリフは、2作目『広島死闘篇』で千葉真一扮する凶暴なヤクザ・大友が口にした〈あれらはオメコの汁で飯食うとるんで〉です。下品な言葉ですが、ズバリ本質を言い当てている。企業人にも、こうした直言力が必要なのではないでしょうか」(秋本氏)

ただ、このセリフを使う場合は、「オメコ」の部分を自分の職種に言い換えて使用されたし。

「『仁義』シリーズは、プロレスのバトルロイヤルみたいな映画。生き残りをかけた過酷な競争を描いています。でも、そうやって見ちゃうと疲れる。だから、"どんなときでも人間、攻めの姿勢を忘れちゃならない"と見るべきです。会社で左遷されたり、閑職に追いやられたときでも、慌てず腐らず、後ろ向きにならないよう生きるため、『仁義』を見るべきです。『仁義』は、どん底にいる時こそ、効果絶大のサプリ。これを見れば、アンナカやシャブなんか必要ありません!」(杉作氏)

がんばれ、ニッポンのサラリーマン!!

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