家庭のある夏川との関係がよくないものだとは、梅雨子もわかっていた。
初めて金縛りに遭ったとき、生霊だった彼とまじわったときから、怖い結末は透けていた。そんなとんでもない理由も、誰にもいえなかった。夏川本人にも。
そうして彼女は本気半分、気晴らし半分で、婚活サイトに登録してみた。そこで文月と名乗る素晴らしい経歴の男に出会い、親しくメールのやりとりするようになった。
「彼は、『ある蒸し暑い雨の夜、女神様みたいなのが降りてきた。夢うつつで、そんな関係を持ってしまった。君があのときの女神さまだとピンときた』といいました」
そうして現実に文月に会った梅雨子は驚いた。あちらも驚いていた。夏川だったのだ。
夏川がサイトに偽名と嘘の経歴で登録していて、たまたま梅雨子が見つけてしまったのだ。
しかし偶然というには、嫌な因縁が強すぎる。その後、二人は組んで結婚詐欺をするようになった。夏川は今までの会社を辞めて、怪しい不動産会社に転職していた。
梅雨子は夏川に命じられ、婚活サイトで結婚相手ではなくカモを物色させられた。結婚を前提に交際するふりだけをして、すっかりその気になった男性に『二人の将来のため』と、マンションを法外な高値で買わせるのだ。
その後は、連絡を断つ。やがて二人は逮捕され、梅雨子を取り調べた警察関係者がこんなことをいった。
「エリートや金持ちを騙る人間がいるくらいだから、神様のふりをする悪霊だっているよ。君だっていろんな男に、結婚する気がないのにすると見せかけていたわけだろ」
釈放された後、夏川とは連絡が取れなくなった。夏川は不動産会社も辞めて妻とも別れ、失踪した。
最初の金縛りの夜、梅雨子のもとに来た男。あれは本当に夏川だったのか。
今となっては全然違う異界の何者かだったような気がしますと、梅雨子は私にいった。
完
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