日本の製薬最大手、武田薬品工業は6月27日の株主総会で、創業230年以来初となる外国人社長の就任を承認した。長谷川閑史(やすちか)元社長に変わり新社長となったのは、英製薬大手グラクソ・スミスクライン社から引きぬかれたフランス人のクリストフ・ウェーバー氏。近年、武田薬品工業は海外での大型買収を繰り返しており、新興国市場で豊富な実務経験をもつウェーバー氏が同社のグローバル化に貢献することを期待しての人事だった。

ところが、この異例の人事に対して創業家一族と元経営幹部らが大きく反発しているという。彼らは先の株主総会に対し6枚にも及ぶ質問状を連名で提出。そこに名を連ねる112人のうち、10名以上は武田の創業家一族だ。株主総会では質問権を行使し「ウェーバー氏の社長就任は外資による乗っ取りだ」と痛烈に批判した。また、もし武田が外国企業に買収されるようなことがあれば「優良な科学技術ノウハウが海外に流出する恐れがある」とも警告している。

創業家一族や元経営幹部らが現経営陣に対してここまで反発するのは、海外企業とのM&Aと外国人幹部の登用で急速にグローバル化を進める現在の経営に対する懸念があってのこと。長谷川氏は2003年に、武田国男氏の後任として、創業家一族以外では初の社長に就任。会社の起死回生をはかり次々と海外の企業を買収したが、合弁後の舵取りに失敗し、収益も激減した。さらに、外部から社員の起用が増える一方で、研究職や幹部らの大量離職もあり、「社内がギスギスしている」と現役の社員からOBの元に相談が寄せられることもあるという。

今回の株主総会を経て、取締役7人のうち3人、経営幹部会議の定例メンバーの9人のうち5人が外国人となった。ウェーバー氏の就任に関しても、長谷川氏が「社長の後任は日本人にする」と公言していただけに波紋が広がったようだ。

これまでにも、国際化を目的に外国人社長を登用した企業は数多くあったが、ソニーや日本板硝子など失敗例には事欠かない。先の総会では創業一族の一人から「(結果を残せなかったら)総退陣する覚悟はあるのか」と問いただされ「実績が期待通りに上げられなければ、そこで責任を取るのは当然」と答えた長谷川氏。

新体制のもと経営に乗り出した武田薬品工業だが、そこに注がれる視線は自ずと厳しくなりそうだ。

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