先月、イギリスのタブロイド紙のデイリー・メールの電子版で、1億人以上の被害者を生む可能性のある殺人ウィルスを日本人研究者が開発! という見出しの記事が紹介された。内容は、日本の河岡義裕教授が2009年に流行した豚インフルエンザのウィルスを元に、極めて感染力が強いうえ、ワクチンに耐性のある新株を開発してしまった、というもの。同紙はもしそのウィルスに感染すると、途端にパンデミックを起こし、全世界で1億から4億人の被害が出るだろうと警告を発しており、このウィルスを作りだした河岡教授のことをマッドサイエンティスト扱いしているのだ。

1億人以上の被害者とはなんとも恐ろしい話だが、なんといってもタブロイド紙のデイリー・メールが発信したニュース。原文をよく読むと、記事中のそこかしこに怪しい点があることに気づく。
まず河岡教授をウィスコンシン大学の教授としているが、1999年から現在に至るまで東京大学医科学研究所の教授である。過去にウィスコンシン大学にいたことはあるが、それは1997年から1998年頃のこと。これは豚インフルエンザなど新型インフルエンザが確認される以前であり、河岡教授が新型ウィルスを開発したとは考えにくい。
そもそも河岡教授はウィルス感染の研究をしているため、新型インフルエンザのウィルス研究のため、その株を培養することは当然だ。これらの新型インフルは、変異によってワクチン耐性のある亜種を生み出す可能性があるが、これらがゴッチャになって、「河岡教授がワクチンの効かない殺人ウィルスを開発」という記事が生まれたのではないだろうか。
新型インフルエンザは感染が強くパンデミックの恐怖は常にあるため、その研究は重要かつ欠かせないもの。河岡教授には、今後もさらに研究をすすめ、ぜひ有効なワクチンの開発を行っていただきたい。

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