母親によって無視された幼児体験が信長を変えた

では、信長を奇行に走らせた要因は何か。それも、やはり土田御前だろう。

幼い頃に母の愛情を受けられなかった子供は、母親から「注目されたい」という深層心理から、突拍子もない行動に走ったり、暴れて周囲に迷惑をかけたりするという。心理学者の分析によれば、母の愛情が強すぎても少な過ぎてもマザコンになってしまうという。

また、信長は政略結婚による濃姫(美濃国主・斎藤道三の娘)以外にも多くの側室や妾がいるが、そのほとんどが年上の女性。吉乃、於鍋の方といった歴史に名が残る側室の多くが、結婚歴ありの後家だったりもする。

幼くして母と離れ離れになった徳川家康の場合も年増の後家好みだったが、やはり、これもマザコン男には顕著な特徴なのだとか。

信長が奇行に走る以前から、土田御前の愛情は弟の信行だけに注がれていた。品行方正な信行を愛していたというよりは、信長とかかわりたくないという心理からの行動である。それでも子は母を慕うもの。信長の奇行も非行も、少しでも母に自分を見て欲しいと願う、マザコン男の悲しい片思いが行動になって表われたものだ。

織田家の当主となった頃には、信長の「大うつけ」もすっかり鳴りを潜める。しかし、母に無視され続けた心の傷は深く、マザコン男の本性はこの後も時々顔をのぞかせた。

裏切り者にはとことん苛烈で残酷なのが信長の特徴だったが、これも、幼年期の愛情不足から引き起こされた感情の暴発。裏切られ、人が自分から離れてゆくことに耐えられず、過剰な行動に出てしまうのだ。

また、信長は意外だが、血族や一族には優しく面倒見は良かったとか。母の愛を得られなかった者が、その疑似対象を求めるのもよくあること。しかし、その疑似対象に裏切られた時は、その報復はさらに過激で恐ろしいものになる。

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