奇妙なモノを見た瞬間 体が硬直してしまった
次の瞬間、人の形をした何かが海から上がって来た。月の明かりに照らされたそれは全身がグレー。まるで全身タイツを穿いているような肌感だ。
このとき悟った。こいつは人間ではない!!
人というのは身の危険や恐怖を感じたとき、とっさに叫び声を上げたり逃げたりすることはできない。大抵は声が出ず、体も硬直して動けないものだ。
本当か、本当か、本当か……
頭の中でそんな言葉を繰り返していると、突然、大きな波が押し寄せて、そのまま飲み込まれてしまった。砂浜までほんの4~5メートルほどの海中にいるのに進めない。
先ほど見たグレーなのか!? 何者かが足首を掴んで海中へ引きずり込もうとしているのだ。
「助けてくれ! 助けてくれ!!」
子供の手前、みっともないがそんなことを言ってる場合ではない。必死に声を上げていると、
「いま助けるぞ!」
ただごとではないと思ったのだろう、同僚がすぐさま海に飛び込んでくれた。まさに間一髪、あと10秒遅かったら溺れていた。
「飲み過ぎたんだろ」
「そうじゃない、灯りの下で見てくれ」
トイレの灯りに照らされた右の足首には、何者かに掴まれた跡がクッキリ残っていた。
この手の話には水難事故などの話がつきものだ。しかし、この海岸で事故死した話は聞いたことがない。あのグレーはいったい何だったのだろうか? 今もって謎である。
『本当に体験した! 恐怖の心霊報告書』¥700(税抜)双葉社