山道は車1台ぶんがやっと通れるような細い砂利敷きで、タイヤは小石をはじきながら重そうに回転していた。坂はキツくいくつかのカーブもあり、アクセルを踏み込んでいなければ、オートマでもそのまま後退し崖の下に落ちてしまいそうだ。
数分後、取材班は再び開けた場所に辿り着いた。薄闇の中、目を凝らしてみると、奥の方に古びた廃墟がある。車の向きを変え、ライトをハイビームにすると、暗い闇の中で崩れかかった古城のような深静峡が、その姿を現した。
火災のあとのためか、屋根や骨組はほとんどない。レンガを積み上げた土台の上にいくつかの屋根の仕切りがあり、まわりに僅かな壁だけが残った2つの部屋の床に、大小さまざまなガラスの破片が広がっていた。近づくと汚れた毛布のようなものがある。毛布には人の形のような跡があり、誰かがついさっきまで寝ていたかのようだ。鬱蒼と茂る草木の間から、誰かが見ているような気がした。
部屋に入ってみると、奥に1人が入れるのがやっとという狭さの浴槽があり、中にどす黒い水が溜まっていた。懐中電灯で照らすと、水面にはゴミのようなものがいくつか浮いていて、その上を無数の虫が飛んでいる。今にもこの黒い水の中から、誰かが這い出してきそうだ。
浴槽の周りには、当時、壁に貼られていたと思われるタイルの欠片が散乱している。天井付近にある排気口のような穴からは、血が垂れたような、焦げ茶色のシミの跡があり、壁から壁へ蜘蛛の巣がはられ、無数の虫が絡まっていた。思わず、目を背けたくなるような光景だ。
次にもう1つの部屋に入る。すっかりトビラのなくなった部屋をのぞき込むと、先ほどと同じ作りの浴槽があった。天井がないため水面は僅かな星の光を反射していて、まるで異界への入り口がポッカリと口を開けているかのようだった。深静峡の哀れな最後を見たような気分がした。建物を出て辺りを見回したが、これより先に建物らしきものはないようだった。
行方不明になった少女だが、警察の捜査も虚しく、今も遺体は見つかっていない。少女は今でもこの寂しい土地を、さまよい続けているのだろうか。

その1 8月23日公開

その2 8月24日公開

その3 8月25日公開

その4 8月26日公開

その5 8月27日公開

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