霊園から後部座席に乗っていた中年女性
「なんで、そんなの食べてんだよ、義之」
聡が言うと義之は、
「だって、おばさんが食べなってくれたんだよ!」
「おばさん? そのおばさんはどこにいるんだよ」
「あれ、いないな。どこ行ったんだろ」
信じていない自分にも、妙な事態になっていることくらいはわかる。この霊園を出たほうが良さそうだ。
義之の腕を引っ張り車に押し込む……と、肌がゾワゾワする感覚に見舞われた。初めての感覚だ。特に右側がひどい。
このときは助手席に美奈子、その後ろに自分、運転席の後ろに義之が座っていた。
徐々に門に近づき、薄暗い電灯の横を通り過ぎようとしたとき、息が止まった。
なぜなら前をじっと見ている見知らぬ中年女性の顔が、すぐ右横にあると気づいたからだ。
視線だけを動かして、あらためて確認する。と、頭だけが宙に浮いてる感じだ。
歯を食いしばっていると、
「はあ~、ようやく外の世界に出られたな」
ハンドルを握る聡が、後部座席の2人に話し掛けるようにバックミラーを見た瞬間! その表情は明らかにこわばった。
「あそこのファミレスで休憩しようぜ」
続けてそう言った聡は車を停めると、元に戻った義之と奈美子を早く出るようせかした。
「おばさん、いたよな?」
義之の言葉にこっくりと領くと、今度は妙なことを言った。聞きたくなかった。
「あのおばさん、お前の体からヌッと出てたんだよな……」
この翌日、原因不明の高熱が出て入院した。
『本当に体験した! 恐怖の心霊報告書』¥700(税抜)双葉社