湯を張ったバスタブにスーツ姿の女が!
「本当に彼女、いるのか?」
「いるよ! 寒がりだから、今は風呂に入ってる」
寒がりの彼女のために部屋を熱くしているようだが、この状況はどう考えてもおかしい。
「せっかくだから彼女に挨拶させてくれよ」
と言うが「会わせたくない」の一点張り。そこで鈴木の制止を振り切って、バスルームに向かうと、たしかに磨りガラスのドアに人影が映っています。
「すみません……鈴木の同僚ですけど、ご挨拶させて下さい」
声をかけてみたが返事がない。
続けて2度3度、声をかけたがやはり返事がない。
おかしい……たしかに人影はあるが、人の気配が感じられないのだ。
「すみません……」
静かにドアを開けた瞬間、腰を抜かしそうになった。
真っ白な湯気の先に湯を張ったバスタブがあり、その中に半透明の女が膝を抱えて座っていたのだ。
ロングヘアで目も鼻、口もあるが、なぜか顔がはっきりとわからない。首から下を見ればスーツを着ているようだ。
「ごめん! 今すぐ閉めるよ」
ドアを閉めた鈴木に、押し出されるように部屋を出た。
この後、鈴木と会うことはなかったが……。
彼は今でも、あの得体の知れない彼女と一緒に暮らしているのだろうか。
『本当に体験した! 恐怖の心霊報告書』¥700(税抜)双葉社