予兆さえない心筋梗塞もある
実は、このような危険を招く"意外な予兆"は、決まったポーズを取ると痛みが走るというもの。
「たとえば布団を押し入れにしまおうと腕を上げた瞬間とか、カーテンを開けようと腕を上げた瞬間などに胸が痛くなる場合です。特に腕を上げるときに痛みが出るなら、要注意です」
毎日の通勤時でも心臓の赤信号をキャッチできる。
「最寄り駅へ向かう途中、同じ地点で胸が痛くなることがありますが、これも危険の予兆です。それは、家から歩きだして、ちょうどその地点で血流が(酸素が)足りなくなった心臓が悲鳴を上げ始めるためです。しばらく休むと治まるので、つい無視しがちですが、これも狭心症が疑われます」
こうした意外な赤信号に気がつけば早めに対処することができる。
しかし、牧氏によると、「50代以上は痛みに鈍感になりがちで、少しくらいの痛みは我慢できてしまうんです」
痛みに鈍感でも、サインがあればまだ救われる。
ところが、事前の知らせとなる狭心症の症状もなく、突然、心筋梗塞を起こす場合が増えているという。
その恐ろしいメカニズムを理解するには、血管はどのように詰まるのかを知る必要がある。
年を取ると、血管は古いゴム管のように硬くなる(動脈硬化)。すると血圧を高めないと、血を体の隅々まで送ることができなくなる。血圧が高くなると、血液が血管の壁に強く当り、内壁は傷つきやすくなる。また、長く生きているうちに、血管の内壁にはいろいろな物がくっつく。
コレステロールなどの脂肪や線維成分だ。これが盛り上がったものをプラークと言う。
「このプラークによって血管が狭くなったのが狭心症ですが、以前は、プラークがさらに大きくなって血管を塞ぐことが心筋梗塞だ、と考えられていました。ところが、プラークというのは、小さくても突然破裂することがあるとわかったんです」(前出・石蔵教授)
プラークが破れると中の成分が血管内に流れ出し、それをきっかけに血が固まり(血栓)、血管を塞いで心筋梗塞を起こす。
つまり、狭心症という赤信号が灯らないまま心筋梗塞という大事故が起こるのだ。
プラークは大きくならなければ血の流れが滞ることがない。胸痛などの症状が起こらないので病院には行かないし、健康診断でも見つからない。
「だから心電図検査を受けて異常なしと言われても、安心してはいけません」(前同)
健診でも異常が見つからず、予兆さえないというから始末に悪い。では、どうすればいいのか。
「当たり前のことかもしれませんが、死の四重奏と言われる生活習慣病(肥満、高血圧、糖尿病、高脂血症)を持っている人は、それだけ心筋梗塞のリスクが高いと自覚し、生活習慣を改めることが大事です」(同)
特にこれから寒くなると、血管が縮小して心筋梗塞が起こりやすくなるという。
自身の体が送る危険信号に、耳を傾けようではないか。