先日行った東南アジア某国のその地方では、秋祭りの時期にあの世のあらゆるものが帰ってくるとされている。
いたる所で線香が焚かれ、果物やお菓子が供えられていた。

しかしどこの町にもお調子者や、悪ふざけが過ぎる人はいる。
その時期にオバケが出ると評判の場所に出かけ、肝試しをしたり心霊写真を撮ったり、生半可な知識で降霊術を試みたりする。
それによって、後日かなりの人が「取り憑かれた」となるのだ。

普段はとても真面目な若い女性が友達に誘われて有名な幽霊屋敷に行き、何かに取り憑かれてしまった。
顔が狐のようになってしまい、獣のような動作を繰り返した。

女性の親は、祈祷師を頼んだ。中年男の祈祷師は、密室に女性とこもって怪しげなお祓いをしていた。
そうして何カ月か経ち、女性は身ごもっているのに気づく。

どう考えてもそれは、祈祷師が猥褻なことをして身ごもらせたに違いないのだが。
彼女も祈祷師も親までもが、物の怪にやられたと信じた。
そして誰もが、堕胎しろといった。
怪しげな祈祷師は、さっさと姿をくらませてしまった。

彼女は産むと頑張ったが、流産してしまった。
しばらく病院で療養していたが、一年も経てば元気になった。
体調はすっかり戻ったが、まだ心は不安定なようだった。

そうしてまた、その季節が巡ってきた。彼女は、自分の生まれて来られなかった子どもも帰ってきているといった。そうして、行方をくらませていたあの祈祷師もひょっこりと戻ってきた。これでなかなか人気の祈祷師なので、この時期は稼ぎ時なのだ。

彼は彼女に再会し、牡の狐と子どもの狐が近くに来ているといった。親は怒らなかった。
誰も、祈祷師を詐欺師だ猥褻犯だと糾弾もしなかった。
彼女が、本当に狐の恋人と子どもが来ている、また会えてうれしいととろけそうな笑顔でいったからだ。


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