―――Vシネマの現場で、「この人はすごい!」と印象に残っている監督、俳優さんはいますか?

哀川 だから、監督をやる人はみんなすごいよ。ちょうど俺が監督やった次の現場が黒沢(清)さんの現場で。俺、監督業が大変すぎて死にそうだったんだけど、あの人、顔色も変えずに淡々と現場を進めていくから、天才に見えた(笑)。
俳優で言うと、俺がやり始めた頃に主演で立ってた人はみんなすごいですよ。原田芳雄さんとか役所広司さんとか、もう半端じゃないもんね。俺も主演してたけど、俺は芝居がブレまくってたから(笑)。同じことは二度とできない、みたいな。まぁ逆にそれが魅力だったかもしれないけど。
あと遠藤憲一と寺島進は、監督とかにめっちゃ怒られてた。「大人になってから人ってこんなに怒られるんだ……」と思って、それが衝撃ですごい印象に残ってる(笑)。「こういうふうにやってくれないかなぁ、君」とか監督に言われて、「ハイ」とか言いながら、全然言うこと聞かないんだよね。何回言われても同じことやるから、すげぇなと思って。今じゃ2人ともすごいとこ行っちゃったよね。でもこの2人が一番怒られてたのは間違いない(笑)。

――翔さんは怒られなかったんですか?

哀川 俺はあんまり怒られなかった。撮影の準備中に、また俺がベラベラ喋ってて、和泉(聖治)さんに「お前、うるさいぞ! 黙れ!」とかは言われたけど(笑)。芝居に関してはあまり怒られたことないね。たぶん、言っても無理だと思われてたんじゃない? むしろ、あんまり言わない方がいい、みたいな。撮影の終わりが見えなくなるぞって意味で。

――Vシネマの現場は暴力的なシーンも多いし、熱が入りすぎて本気で喧嘩になったりすることはなかったですか?

哀川 俺はなかったんだけど、『修羅が行く』(95年から5年に渡り13本製作された和泉聖治監督、哀川翔主演の人気シリーズ)の現場では、よく大和武士と松田勝が喧嘩してた(笑)。俺のうしろで「コノヤロウ」って声が聞こえて振り返ったら、2人の顔がすげえ近くてさ、バチバチの緊迫感。
「オジキってわかってんのかコラ……」とか言いながら揉めてるんだよ。それはVシネの物語の話をしてるのか、実際に役のオジキが入っちゃってものを言ってるのか『え、どっちの感情で言ってるの?』みたいな(笑)。今いい空気出てるから、カメラ回して撮影スタートしたほうがいいんじゃない? って感じ。だから、そういう生の緊張感がビビビビって映像に伝わってたと思うよ。

――Vシネマは若手の登竜門というか修業の場というか、いろんな俳優や監督がそこからブレイクしていった。みんな一発あててやろうみたいな気迫があって、本気だから熱くなる?

哀川 そうなんだよね。なんか出てる役者たちがギラギラしてた。そんな現場、そうはないもんね。今の若手の俳優はみんな仲がいいし、お行儀がいいよ。思い返せば、Vシネは皆すげぇ行儀が悪かった(笑)。でもそういうのが結果的にVシネマの勝利になったんじゃないかな。

――改めて振り返ってみて、翔さんにとってVシネマってどういう存在ですか?

哀川 俺、一番出てるときで、主演で10本、助演で12本、年間320日現場っていう年があった。そんだけ現場に行ってるとじっくり台本を見なくても体も口も動くようになるんだよ。なんだろうね、特殊なサイボーグみたいな(笑)。もうロボット化してた。ロボットだからすごいよ、五感が普通の人と違うようになるから。痛いんだけど、痛くねぇみたいな(笑)。
そうなると「でも俺は人間なんだ、ロボットじゃねぇ~!」みたいな戦いがあるのよ。それで夢を見る。夢の中でも何かのVシネを撮影しているんだけど、なぜか伴明さんが「よーい!」って言うの。『アレ? なんで伴明さんがいるんだろう、現場が違うだろう』とぼんやり考えて、それで『わ、夢だ』と思うわけ(笑)。それが出たらもう末期。休んでください、みたいな。それ、2、3回あるよ。
でもそういう経験があって今があるわけでね。Vシネマがなかったら、俺なんか今なにやってるかわかんない。本当に感謝だよね。恩義を感じてます。


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