・ぼくたちの明るい未来を照らす小さな幸せは、この道の向こうにあった。
・大木を見上げるとき、並木をくぐるとき、不思議だね、心が静かになっていく。


なにも、自作のポエムを披露したくなったわけではない(笑)。これってなにかというと、首都圏の新築分譲マンションを彩るキャッチコピー。前者は「エクセレントスクエア西船橋」、後者は「東京テラス」なのだが、言葉だけ捉えると、マンションの売り文句とは思えない。こういった、ふんだんすぎるほど情緒豊かな表現や文体の広告は「マンションポエム」と呼ばれているそうだ。最近は首都圏を中心に新築ラッシュが続き、販売競争も激しくなっているため、冒頭のようなポエムが相次いで生まれているのだ。

なぜマンションポエムが生まれるのか。背景にあるのは、マンション広告の表現を規制する、業界の自主ルールがある。これは、景品表示法に基づいて公正取引委員会の認定を受けて定められたもので、出稿できる時期や表示方法に制限がかかるというもの。例えば「最高級」「完全」など、実際より優良だと消費者に誤解させるような表現は禁じられていて、合理的な根拠が伴わない限り使用することができない決まりだ。これにより、マンションのキャッチコピーは、どうしても曖昧で抽象的な文言になってしまうのだ。
いずれにしろ、不動産は高い買い物。サイフのヒモを緩めてもらうには、言い過ぎくらいの美辞麗句がちょうどいいとされている。郊外であれば「杜と丘に囲まれた」、家も「邸宅」、帰宅は「安らぎの家路」などなど。ちなみに「森」を「杜」と表記するのも、高級感を演出するため。億ションなら当然のことで、ハイグレードな表現=ハイクラスな暮らしと買い手に想起させるというわけだ。

とはいえ、なかにはやりすぎなのでは? と思ってしまうポエムも、なくはない。例えば次のようなコピー。

・邸(すまい)がたどりついた、寛ぎ、包容力。扉の向こうに、完全なる小宇宙が広がっている。(南青山テラス常盤松フォレスト)

屋内に宇宙……ちなみに「小宇宙」は「コスモ」と読んでいいのだろうか?

・三軒茶屋の空を庭にする(パークハウス三軒茶屋)

大阪・梅田スカイビルのように空中庭園でもある、わけではない。

・仕事も暮らしも、あきらめない人の大手町9分。(プレミスト東陽町)

東西線で一本ということですね。大手町強調ですが、東陽町もいいところなんですけどね。

とまあ、ツッコミどころ満載のマンションポエムの数々。電車の中づり広告や新聞の折り込みチラシで目にするはずだが、イラッとする気持ちを落ち着けたい、優しい気持ちになりたい時には、ぜひウォッチしてみてはいかがだろうか。見るだけで、なんかゆったりした気持ちになれますよ。

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