「航空作戦能力」の高さを証明

自衛隊と警察、消防の連携はすこぶる良好だという。
「広島土砂災害の現場では、三者が一体となって、整然と活動していたのが印象的です。これは、防災訓練等を通じて、自衛隊が地元警察、消防と常日頃から連携を図っている成果でしょう」(前出・菊池氏)
警察・消防の精鋭のはるか上をいく自衛隊のスキル。御嶽山でも、その実力はいかんなく発揮されている。まず、専門家が口をそろえるのが、ヘリをフル稼働する作戦の妙。
「今回の派遣で、陸上自衛隊の航空作戦能力が極めて高いレベルにあることがわかりましたね。地上3000メートル付近でのホバリング(空中停止)は見事。ヘリは空気が薄いところでは極めて操縦が困難なんです。それをわけなくやってのけるわけですから、凄まじい技量ですよ」(前同)
PKOなどの国際貢献任務で、自衛隊は輸送任務を担当することが多いが、これは「各国軍から、その高い操縦技術を買われて」(古是氏)なんだとか。

「現代の陸上戦闘はヘリ機動が生命線です。隊員を乗せたヘリが作戦エリアに迅速に到達、隊員はミッションを完遂し、定めた地点でまたヘリに乗って帰投する"ヒット&アウェイ"が基本です。今回、御嶽山で陸自が見せた技術は、戦地でも十分通用するものです」(菊池氏)
御嶽山で輸送任務につく大型ヘリのチヌークは、米ボーイング・バートル社が開発(自衛隊機は川崎重工がライセンス生産)、ベトナム戦争で実戦デビューした"歴戦のつわもの"だ。
「各国で、特殊部隊員を運ぶミッションにも使用されています。陸自では第一空挺団(習志野駐屯地=千葉)が空挺降下する際にも使用されるなど、汎用性の高い機体です」(黒鉦氏)

また、同じく御嶽山に派遣された万能ヘリUH-60JA「ブラックホーク」も、折り紙つきの名機。
「11年のビンラディン急襲ミッションで、米海軍の特殊部隊ネイビーシールズが使用しています。同機の実用上限高度は5000メートル近いので、御嶽山の山頂でも"まだ余力あり"と言えるかもしれませんね。過酷な戦闘に耐えうるように設計された軍用機ゆえ、災害派遣で抜群の威力を発揮するんですよ」(前同)
ブラックホークは、被災者をロープで牽引し救出した。ただ、これは戦地での使用とは異なるという。
「今回はホバリングしながら、ロープをモーターで巻き上げ、ホイストと呼ばれる装置を使って被災者を収容していました。これは最も安全な方法。敵支配地域に隊員が迅速に降下する場合には、ファストロープといって、安全装置をつけずに10~30メートル程度上空から地上に一気に滑り降ります。両手と両足の裏でロープを挟み、滑り降りるんですよ」(元陸上自衛隊レンジャー助教)
その間、わずか5~7秒。10名程度の精鋭を地上に投入するのに、わずか数十秒という早業である。

「この技術を身に着けている隊員は、自衛隊の中でも精鋭のみ。ただ、一般の普通科隊員も、リペリングと呼ばれるカラビナ(ハーネス)を用いた方法で降下可能です。これだと、1人あたり20秒程度の所用時間ですかね」(前同)
こうした降下行動は、実戦では敵の攻撃を受けるリスクを伴いながら実行されるのだから、想像を絶する。

「御嶽山でのミッションの主力は第13普通科連隊の隊員です。普通科とは歩兵部隊。彼らは山岳レンジャーと呼ばれ、山間部でのゲリラ戦闘を叩き込まれています」(黒鉦氏)
レンジャー資格を持つ隊員は、普通科を含む戦闘職種で十数名に1人の狭き門。
「約3か月のレンジャー教育過程を修めると資格が得られます。訓練は文字どおりの"地獄のしごき"ですね。たとえば、教官に2時間ひたすら腕立てをしろと言われます。やっているとすぐに汗で水たまりができる。手が動かなくなって水たまりの上に潰れると、教官に頭を踏まれて怒鳴られる。でも、その間、"ああ、これで少し休めるな"と感じるのがレンジャーです(笑)」(前出・元レンジャー助教)

最終試験は、50キロ近い装備を身にまといながらのミッション。道中には橋梁爆破などの様々なゲリラミッションが設定されており、それをクリアしながら4~5日間、ほとんど飲まず食わず、睡眠も取れない状態で戦い抜くのだという。
「与えられる食料は最低限ですから、山中の野生動物を調達して食べます。レンジャー教官から聞いた話ですが、野生動物を殺す場合は首か頭を狙う。内臓が破裂すると糞尿臭くて食べられないからです。捕獲した獲物は首を落とし、逆さにして血抜きし、内臓を取り出す。こうした技術を徹底的に叩き込まれるんです」(軍事評論家・神浦元彰氏)

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