同世代の女優の秋子が若かった頃、地方のホテルで異様な体験をしたと話してくれた。

突然に猛烈な性欲に襲われ、共演した俳優を呼んで本当のラブシーン、激しい本物の濡れ場をやってしまったが、まったく満たされなかったと。

彼が秋子に異様なものを感じて怖がり、自分の部屋に戻ってしまった後、どうにか自分を落ち着けて寝入った秋子は、夢の中でもまた男に抱かれた。

いや、抱かれた、なんて言葉はふさわしくない。
その夢の中の見知らぬ男は秋子に愛情の欠片もなく、ひたすらに獣欲としかいいようのないものをぶつけてきた。

秋子は夢の中でも快感などまったく得られず、ひたすら一方的な欲望と暴力にさらされ、痛くて怖くてひたすら泣き叫んでいたそうだ。
男の方もまた、本当の意味での快感を得られないようで、射精に苦悶の表情すら浮かべていた。

目が覚めたときは、異様な性欲はおさまっていた。
本当に交渉を持ってしまった共演の俳優とも、何食わぬ顔でまたソフトなラブシーンを演じて、仕事は無事に終えられた。

その俳優とは、その後はしばらく共演の機会もなく、連絡も取り合わなかった。
彼もまた、何かこれはおかしい、異常だと感じていたのだろう。

ひょんなことから秋子は一年くらいして、例のホテルで女が男に暴行されて殺されていた事件があったのを知る。
そう、彼女が泊まった部屋だったらしい。

殺された女の無念さより、殺した男の性欲の方が部屋に残っていたのか。

「ちょうどその頃、あのときの俳優にも再会したの。彼、こんなふうにいったわ。あのときベッドの中に、もう一人誰かいるような気がして怖かったって」

秋子はまるで激しい情交の後のように、疲れた顔で苦笑いして見せた。


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