2004年にオレオレ詐欺から、その呼称が変更された「振り込め詐欺」。いまや誰もが知る高齢者狙いの詐欺行為だが、これだけの周知にも係らず、被害額は右肩上がりが続いている。今年9月末時点の統計によれば、被害額は前年比3.6%増、驚きの46億4800万円にのぼっている(警視庁調べ)。それゆえ、警察も振り込め詐欺検挙には相当な力を使っているという。

現在警察では、詐欺手口の周知とともに、現金の受け渡しの際に犯罪者を確保する「水ぎわ戦術」を展開している。

ATMでの引き出しや、現金を直接受け取りにくる詐欺手口は多いが、この手口の最大の特徴は「犯人グループが必ず現場に現れる」ということだ。そこを捕まえればいいわけである。昨年度から今年に掛けて、現場に現れる「出し子」や「受け子」と呼ばれる末端の犯罪者が多く逮捕されたのは、記憶に新しい。

そんななか、現金を振り込んだり、受け取ったりすることが事実上難しくなった犯罪集団が考えついたのが、郵送・宅配の利用だ。特に現在、悪用されているのが、郵便局が運用する「レターパック」と呼ばれるものだ。

これは、封書と小包の中間のようなもので、郵便局やコンビニでボール紙でできた専用の封筒を買い、宛名を書いてポストに出すだけで、切手を貼らずに荷物を送ることができるサービスのことだ。現在、容量によって500円と350円の2種類があり、特に350円のレターパックは受取時に確認印が必要ないため、犯罪組織に悪用されている。

では、このレターパックを用いる犯罪者には、いったいどんなメリットがあるのだろうか。

レターパックは、老人が直接ポストから投函できるので、証拠となりうる配達記録が残らない。また、切手などを買いに窓口に行く必要がないため、防犯カメラや人目につきにくく、注意を促す第三者との接触も少なくなるので、犯罪集団に悪用されているのだ。中身を特定されにくい厚手のボール紙という形式も、犯罪に利用される度合いを高めているという。

さらに、送付住所がまったくの架空でもよいことも挙げられる。架空名義で契約した「私設私書箱」やウイークリーマンションの一室を受け取り住所に使えば、詐欺が済み次第これらを解約してしまえばいい。そんな架空の住所に現金を送ってしまえば、「お金は送ったが連絡が付かない。住所をたどったが何も無い……」という事態になるわけだ。

そこまでわかっているなら、最初から現金であるか局員が中身を確かめればよいではないか、と思うがそうもいかない。

郵便法では「郵便の中身を見てはいけない」と規定されており、その上位の日本国憲法でも「通信の秘密」が国民の権利として守られているのだ。そのため、怪しいと感じても、局員が無断で中身を確認すれば、憲法違反に問われることすらあるのだ。そんな法律の壁が、レターパック詐欺を増長させてきた一要因ともいえるだろう。

ただ、同じ郵便法で「郵便で現金を送るのは現金書留に限る」とも規定されており、局員は窓口に来た老人にその旨をつげ、未然に現金送付を防ぐことは可能だ。

だが犯罪者もよくしたもので、仮に窓口で「現金ではないか」と郵便局員に問われても「違います」と否定するように言いくるめているという。

『本当に自分が動ければ取りに行くんだけど……おばあちゃん、今動けないからごめんね。うそをつくのは心苦しいけど、窓口では現金じゃないって言って』と老人の親心、親切心にうまくつけ込んでいる……という寸法だ。

現在、郵便局では『「レターパックで現金を送れ」は全て詐欺です。』と完全に断定している。これを読んでいる読者の方は、まさかこんな詐欺には会わないだろうと思うが、もしもそんなことをいう輩に出会ったら、即最寄りの警察に通報してほしい。

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