イラスト/グ スーヨン

そのオヤジを初めて目撃したのは、
有名な六本木の高級クラブを上がった名物ママが経営している高級ぼったくりスナックだった。
50歳ちょっとオーバーくらいで、極々フツーのスーツ姿。
ルックスも、ただの中年男である。
ベロンベロンというのは通り越して、
ペロンペロンの紙みたいに、ソファの上でヘラヘラと揺れていた。

カラオケのイントロが流れ始めると、
颯爽とマイクを持って立ち上がるオヤジ。
曲は、テレサテンの「つぐない」

まったく上手ではないが、ペロンペロン加減でちょうど良いビブラートがかかっていて、どことなく心地良い。
次第に、振りというか微妙な踊りを踊り始める。そして、歌詞の節々に「しげるぅ〜」という替え歌を披露。

どうやら、オヤジの名前は「しげる」さんらしい。
確かに、はしゃぎすぎである。
間違いなく、子供みたいである。

でも、それがどうした?
そんなことは、どうでもいい!
オレは今、どうしようもなく気持ちが良いんだっ!

本人が実にどうしようもなく気持ち良い状態なのが、
聞いているオレたちにも、すんなりと分かる、分かち合える瞬間だった。

高級ぼったくりスナックの美しい女子たちに絶大な人気を誇る「しげる」さん。
両脇に美女を抱えて、ご満悦の「しげる」さん。
その日以来、「しげる」さんをリスペクトし、大ファンになったのは言うまでもない。

「しげる」さんには、さすがのオレ様も完敗でございます。
オレもね、
酔っ払いのベテランですよ。
そんじょそこらの素人の酔っ払いと一緒にされちゃ困るんですよ。
いわば、酔っ払いのプロフェッショナルですよ。
なのに…

どうして「しげる」さんはモテモテで、オレはモテないのか?

そもそも酒を飲むって、どういうこと?
酒を飲んで、自分が楽しくなる。
まわりを楽しくさせる。
女の子を口説く。
なにかイヤなことから逃避する。
なにかをひとときだけ忘れたい。

どれも違いますね。
薬だと思っても、毒だと思っても飲める酒だけど、
飲まなきゃならない理由なんて、どこにもないんですよ。
だってさ、他にもいろいろ解決方法や、逃避方法はあるんだからね。
その方法に、酒を選ぶ理由なんてのは、どこにもないんです。

ただただ、ちょうど良い加減で、理由もなく酒を飲む。
いい加減な学習の極意がここにありました。


「しげる」さんは、
本質を身体で分かっていらっしゃるんです。
だから、激しく酔っ払っている「しげる」さんを見て、誰も辛くなったり、楽しくなったり、悲しくなったり、アタマにきたりしないんですね。
そんな人間だから、モテて当たり前!

ちょうど良い加減ですよ。
くれぐれも、自分に無理をして「空気を読む」なんて、バカなことと勘違いしないでくださいな。


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