私と同じく歌舞伎町に住むタレント、冬美の話だ。ある夜、マンションの部屋に一人で いたら呼び鈴が鳴った。モニターには、エントランスに立つ見知らぬ若い女が映った。
誰かの部屋と間違っている、そうわかったけれど。それよりも冬美は、デリヘル嬢っぽいその女の漂わせる雰囲気に寒気がした。雰囲気というより、殺気。こちら側の画像はあちらには見えないはずなのに、目が合った。尋常でない黒い意識が 伝わって来た。冬美はあわてて、受話器を置いてインターフォンを切った。

オートロック 式なので、簡単に部外者はマンション内には入って来られない。
どうかすぐ間違いに気づいて、本来訪ねるべき部屋に行ってよ。
そう願ったのに。しば らくすると今度は直接、自宅玄関のドアのベルが鳴らされた。

誰かここの住人の後にくっついて入り込んできたらしい。何度も玄関のベルが鳴らされたが、出なかった。
しばらくしてベルの音は途絶え、冬美は無理矢理に眠った。

昼前に起きておそるおそる ドアスコープ越しにのぞいたら、誰もいなかった。しかしほっとしたのも、つかの間。 警察が来て管理人が来て、騒ぎになった。
仮に冬美の部屋を1001号室とすれば、1010号室の住人が殺されていたのだという。

被害者はホストで、加害者は恋人のつもり の風俗嬢だった。ソープに売られそうになってやっと、彼の本心に気づいたのだそうだ。
私も殺されかけた、と冬美は警察に訴えた。ドアを開けて人違いだとわかっても、殺されたに違いないといった。

それほどの殺意だったと。あの殺意は男にだけでなく、自分に も向けられていた、寿命が何年かは縮まったと力説した。

捕まった若い女は、部屋をいったん間違えたことは覚えていなかったそうだ。
しかし冬美は、あんな強い殺意を人違いや部屋を間違った、で済ませないでほしいという。


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