木枯らしが吹くこの季節に絶対に欠かせない庶民の味にまつわるあれやこれやについて一挙に大公開――。

12月も半ばになり、めっきり冷え込んできた。そんな季節に食べたくなるのが、おでん。今夜も、アツアツのおでんをハフハフしながら、熱燗をクイッと、心と体を温めようと考えている読者諸兄も多いことだろう。
そんな冬の名物とも言えるおでんには、実は様々な秘密が隠されている。
そこで本誌は、おでんの秘密を50個集めてドドーンと紹介。これを読めば、おでんが100倍おいしくなる!

まず、一口におでんといっても、タネからだしまで地域によって全然違うのだ。
「そばや、うどんの東西の違いのように、おでんも関東では、醤油、砂糖、みりんを入れた甘辛いつゆが一般的で、関西は薄口醤油にととの塩で味を調えたあっさりしたつゆがベーシックです」(グルメ誌ライター)
名古屋では八丁味噌をベースに、醤油を加えた濃厚でコクのあるつゆが庶民に親しまれている。
「青森では、すりおろしたしょうがが入っています。もともと青森駅近くのヤミ市の屋台で、青函連絡船を待つお客の体を温めようとしたことが始まりだったようです」(料理研究家)

ちなみに、理由は定かではないが、青森では夏でもおでんを食べる人が多いのだという。ほかにも兵庫県には、濃く甘い味付けのおでんと、薄味のおでんの2種類が存在し、しょうが醤油につけて食べる。
「静岡も独特で、はんぺんが黒いんです。青魚の風味が強いんですが、ほかの地域の方が初めて見ると、みんな驚きますね。食べ方も、イワシやカツオの削り節と青のりを合わせた、だし粉をかけるて食べるのが特徴です」(前出・グルメ誌ライター)

ほかにも、函館では、巾着に餅の代わりにチーズを入れたおでんが人気を集めていたり、香川では、うどん屋でうどんが茹であがるまで、おでんをつまむという文化が根づいている。
このように、地域によって味の違いは様々で、もちろんタネにも、地域性が色濃く反映されている。
関西では、紀州(和歌山)など、鯨の漁場が近かったため、関東人には馴染みが薄いと思われるが、鯨のタネが多い。
「関西は、さえずりと呼ばれる鯨の舌を乾燥させたものや、コロという鯨の皮を使ったものなど、鯨を使ったものが多いです。ちなみにさえずりは、大阪の創業170年の老舗おでん屋『たこ梅』の登録商標で、食べると、くちゃくちゃと出る音が鳥のさえずりに似ていることから名付けられたようです」(前出・料理研究家)

その一方で、関東のタネは圧倒的に練り物だ。
「江戸時代から、江戸前の魚が水揚げされ、水産加工業が盛んだったことから、そうなったんです」(前同)
地域によって異なるタネだが、この話題になると、関東人と関西人で必ずといっていいほど、言い争いになるのが、ちくわぶに関してだ。
ちくわぶは東京発祥のもので、関西人にはその存在自体を知らない人もいるという。ちくわぶに怒りの声をぶつけるのは、関西出身のライターだ。

「ハンペンも関西にはないんやけど、それはまだ許せる。ちくわぶは、そもそも名前が悪い。まだ上京したての頃、ちくわのことを東京ではちくわぶ言うんかと思って食べたら、全然違う! クレヨン食うてるんかと思いましたよ!!」
人の好みはそれぞれだが、関西人の中には、ちくわぶの食感が苦手だという人が多いようだ。
そんな地域ごとに独自の特色が出ているのは、おでんの歴史と密接に関係しているからだ。

そもそも、おでんの原型となる食べ物が登場したのは、南北朝時代まで遡る。
「切った豆腐を竹串に刺して、味噌を塗って焼いた豆腐田楽がおでんの原型なんです。その田楽に接頭語の"御"をつけ、おでんと呼ばれるようになりました。なので、おでんを漢字で書くと"御田"となります」(料理研究家)
そこから、現代のおでんに近づいたのは江戸時代のこと。
「大坂で、こんにゃくを温めた昆布だしの中に入れて、甘味噌をかけて食べるおでんが流行した。一方の江戸では、評判を落とすことを"味噌をつける"というように、味噌をつけることを好まなかったんです」(前同)

さらに、千葉県の銚子や野田で、醤油醸造が盛んになり、市中に醤油が出回るようになっていたため、醤油をベースにしただしで煮込むおでんが庶民の間で人気となった。
大正時代には、関西でも醤油で煮込むおでんが作られるようになったが、味噌ダレをつける従来のおでんと区別するために「関東煮」と呼ばれたという。

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