マル暴刑事の仕事は地味!?

では、実際にどれだけ地味なのかというと、その代表例が定例会や葬儀、盃直しなどの「視察」で、こうした組行事は、多くの組員や関係者が集まるため、組織の現状を把握するためには格好の場なのだという。

「事前に行事が行われる場所や時間を把握し、開始時刻よりもかなり早くから捜査員は現場に集合。なるべくすべての出入り口に捜査員を配置し、また、集合の際に組員が使用するであろう駅や空港などにも人員を割きます。そこで何をするかというと、何時何分に、どの親分、組員が出入りしたのかをノートに書き込んでいくわけです。その際、車に乗ったまま駐車場に入っていってしまう親分衆もいるんですが、車のナンバーも把握していますので、見逃すことはほぼありません」(前同)

たとえば、日本最大の組織である山口組の定例会でもこのような光景が見られ、神戸市内にある総本部の周りで兵庫県警の捜査員が待機、ガレージに入っていく車の姿を、長いときは丸1日近くも追っているそうだ。

「現在、山口組の直系組長は70人強いて、自分の車で総本部入りする最高幹部や舎弟衆のほか、『関東ブロック』『九州ブロック』などのブロックごとに集合する直系組長などを、一人一人確認するんです。そのため、県警の捜査員の手帳やノートの後ろのページには山口組組織図や顔写真が貼られていますが、それらは週刊誌記事の縮小コピーであることが多いですよ(笑)」(同)

地味な作業すぎて、何の役に立つのか我々にはわかりにくいんですが……。
「山口組の場合は、そうやって毎月の記録を残すことで、急遽、定例会に出席しなくなった直参が病気になったのではないか、あるいは破門や謹慎処分になったのではないか、などの動向を調べるんです」(同)

石岡氏によると、1次組織ではこのような目的を持つ視察だが、3次や4次などのもっと小さい組織では別の意味も持つと言う。
「大きな目的のひとつが、新規の"構成員"の認定作業です。暴力団構成員とは、自称でも誰かの勝手な決めつけでもなく、"○月の定例会に出席""○月の葬儀に参列"などの事実を積み重ねて、その組との関わりの深さが客観的にも証明されたときに警察が指定します。もし、構成員と指定された人間から"自分は違う"と訴えられることも考えられますから、捜査員は誰が出入りしたかのチェックだけでなく、その姿を写真に収めることも一般的に行われています」

その意義は理解できたものの、視察によって"大物組長逮捕!"や"法律抵触を暴く!"とはいかないということ?
「そうとは限りません。たとえば、いつもとは違う車で定例会に出席した親分がいたとしたら、捜査員はすぐに、その車のナンバーや車種から車の持ち主を割り出します。その結果、使われていた車が"車庫飛ばし"や"名義貸し"であると判明したら、その組長が逮捕に至るということは日常茶飯事と言えます」(同)
親分の逮捕と言えど、地道な作業の積み重ねだったのか……。

「他にも、ヤクザ組織にとって非常に重要な儀式である盃直しでは、さまざまなところに捜査員は目を光らせます。儀式を経ることで、組織内の座布団の順番(序列)が変わりますから、出入りする人間の服装やリボンを見て、誰が盃を受けるのか(新しく子分や弟分になるなど)、誰が昇格(出世)したのかの手掛かりを得ようとするんです」(同)

実は、この盃直しの際にヤクザ組織が調べられると困るというのが、仕出しや着付の業者に関することだという。
A氏が解説する。
「今は暴排の時代だから、ヤクザは民間の会社に何も頼むことができない。もしバレれば、その業者に迷惑がかかるし、こっちから二度と頼めなくなってしまう。とはいえ、盃直しで使う鯛や、宴会で出される仕出し料理は用意しなければならないし、羽織袴を着付する人も呼ばなきゃいけない。だから、警察にバレないよう、カーテンで中を見えないようにした車両で彼らを迎えに行くんだよ」

そのほか、さまざまな"隠蔽"を重ねると言うが、それでも、業者を特定されることが多々あるそうだ。
「会場内はしっちゃかめっちゃかだから、ついつい、仕出し料理のお椀やお盆を外とか窓際に置いちゃうんだよ。サツはそれを目ざとく見つけ、店名が書いてないか、書いてなければ、どんなマークや模様が描かれているか、写真に撮ったり、手帳に書いて、あとからわざわざ調べるんだ」(前同)

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