近年、テレビで特集が組まれるなど、再注目を集める女子プロレス。今はなき全女=全日本女子プロレスを舞台に、80年代から90年代にかけ、幾多のスターと名勝負が生まれた。
このたび、当時の舞台裏を"ぶっちゃけトーク"で明かそうというDVD企画『全日本女子プロレス・ガチンコトークバトル』プロジェクトが立ち上がった。その前哨戦として、女子プロの黄金時代を築き上げた5人のレジェンド・レスラーが、ここに集結した!

――83年に結成されたクラッシュ・ギャルズ(長与千種、ライオネス飛鳥)により、女子プロレスに何度目かの大ブームが起きました。その敵役として、ダンプ松本さん率いる"極悪同盟"は大暴れしましたね。

ダンプ松本 あの頃は一人じゃ外に出られなかったもんね。熱狂的なクラッシュ・ギャルズのファンに何されるかわからなかったから。会場で生玉子やカップラーメンを投げつけられるのは当たり前。だから、街を歩くときもたいていブル(中野)ちゃんとか(影)かほるちゃんとか、極悪同盟のメンバーと一緒だった。

ブル中野 ダンプさん、覚えてます? 一度、酔ったファンがビールびんを割って、向かってきたことがあったじゃないですか。

ダンプ あったっけ?

影かほる あった、あった。新宿で飲んだときだったよね。握手だかサインだかを断ったら、いきなりその男がキレて、持ってたビールびんを電信柱にガシャーンて叩きつけて。"うわ~、やられる!"って思ったよ。ブルさんは"怖い、怖い"って逃げちゃうしさ(笑)。

ブル アハハッ。私、酔っ払い、嫌いだから。

堀田祐美子 中野さんはリングではあんなにスゴいのに、普段は怖がりですもんね(笑)。

――リング上の戦いも過激でしたよね?

堀田 それはもうピリピリしてました。レスラー同士の人間関係、ライバル意識がそのまま試合に出てしまうところがありましたから。

井上貴子 ベビーフェイス(善玉)かヒール(悪役)かではなくて、人間的な好き嫌いや感情の部分は絶対、試合に出ますよね。

ダンプ それが全女のリングなんだよ。会社も仲悪い同士をぶつけたりして、わざとそう仕向けてるところがあったしね。

影 一度、ブルさんとデビルさんがリング下で大乱闘したことがあったよね。2人ともセコンドだったんだけど、リングの試合そっちのけで大喧嘩(笑)。

ダンプ あったね~。大宮スケートセンターだったかな。ボクが絡んでるタイトルマッチだったんだけど、ブルがデビルに張り手をしたか何かで火が点いて、リング下で延々と殴る、蹴る。

ブル あの日はもう会場に入ったときから"今日はヤバそうだな~、来そうだな~"と感じていて。その前にデビルさんとはいろいろあって、私も"来るなら来い、こっちもやってやる"って気でいたから。

堀田 空気でわかるんですよね、そういうときって。"挨拶しても無視された。今日は先輩の虫の居どころが悪そうだぞ"とか。私も若手のとき先輩に試合でボコボコにされたことがある。顔面を殴られてリングに倒れたら、"起きろ、コラ!"と蹴りを入れられて。で、立ち上がると"なに立ってんだ!"と再びパンチの雨。どっちなんだって(笑)。

影 試合でやられる分には、まだいいけどね。普段から先輩のシゴキというか、かわいがりもハンパじゃなかったから。

ダンプ ま、誰とは言わないけどね(笑)。ボクも若手の頃はずいぶん、やられたよ。リング上に座らされたまま頭を押さえられて、顔面を狙って何発も蹴りを入れられたり。あのときは"いつか殺してやる~!"と思った(笑)。

ブル ダンプさんの時代は一番多かったんじゃないですか、イジメとか。

ダンプ そうかもね。

堀田 私たちの頃はクラッシュの全盛期で年間300試合やっていて、先輩たちもものすごく忙しかった。だから後輩や新人を構う暇もなく、シゴキも比較的少なかった。でも、貴子が入った頃は、女子プロ人気もやや下火になっていたから、かわいそうだったよね。

井上 私の頃はけっこう情報量も多くて、シゴキとか、上下関係は絶対とか、ある程度、知ってたんですよ。だから"こんなもんだろうな"って感じでした。むしろデビューしてからのほうが悩みましたね。試合をこなすのに精いっぱいで、お客さんに"見せる"ことができなかったんですよ。

堀田 プロとして、いかに見せるかという部分ね。

井上 ええ。試合中、先輩の振り回した竹刀が当たって、すごく痛かったけど、必死だから痛いという反応ができなくて……。自分が悪いんですけど、リアクションができていないと先輩にグワーって怒られました。

影 でもさ、日頃、厳しい先輩がたまに優しくしてくれると、うれしいよね。

井上 あ、中野さんは覚えています? 私が新人時代、ご飯に連れて行ってくださったこと。

ブル え~、そうだっけ。

井上 後楽園ホールでの試合後、荷物を目黒の道場まで運んだんです。両手に重い荷物を持って電車で移動するんだけど、なぜか、その日は道場に向かう坂道の途中で、同期の子と"こんなの、ヤダよね""もう辞めちゃおうか"って話になって。そしたら、道場の塀の横から中野さんと宇野さん(北斗晶)がヒョイって顔を出して、"これから中華食べに行かない?"って。喜んでご馳走になりました。

影 貴ちゃんたちを見て、"しんどそうだな"って思ったんじゃないの。ブル様は覚えてる?

ブル ううん、覚えてない。

井上 もし、あのときにお二人が偶然、出てこなかったら、たぶん私はプロレス辞めてたと思う。

ダンプ 白いものでも先輩が黒と言ったら黒と言う世界だからね。ただ同じイジメでも、愛のあるイジメは周りが笑えるんだよね。ボクも若い頃は落ちこぼれだったから、かなりやられたよ。壁に飾られる大きな亀の甲羅があるじゃん?

――海亀の甲羅ですね。

ダンプ そうそう。あれを背負ったまま、地面を這えって言われて。それで、目の前に撒かれた、ちぎったパンを、亀の真似をしてフゴフゴ食べるっていう(笑)。

一同 ワハハハ!

ダンプ あとは、移動のバスの中で先輩にゲーム用のおもちゃの千円札を渡されて、"これで饅頭買ってこい"。ガソリンスタンドで本当に買いに行かされて、その間にバスがブ~ンって発車しているの(笑)。

ブル その人、誰ですか?

ダンプ マミ熊野さん。

ブル ああ~(笑)。

ダンプ でもね、マミさんはボクが"もう辞めようかな"ってバスの中で落ち込んでたら、後ろの席からボソッと"頑張るんだよ"って。"今は自分の気持ちを捨てなきゃダメ。我慢しなさい"と……ああ、ダメだ、泣いちゃう(笑)。でも、あのひと言がなかったら、間違いなくプロレス辞めてたよ。だから、愛のあるかわいがりは健全なんだよ。

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