選挙報道が前回比4割減に!

その第一手が、首相が人事権を持つNHK経営委員の交代だった。
「ここに安倍首相は"お友だち"を強引に送り込み、大きな布石としたんです」(前同)

この12人の経営委員会によってNHK会長人事は決まるのだが、安倍首相はまず、そこを牛耳ったのだ。
そして、第2次安倍政権発足から1年後の13年12月、首相は"お友だち"籾井(もみい)勝人氏をNHK会長にねじ込むことに成功する。
「この籾井会長は、"政府が右ということを左と言うわけにはいかない"と公言。これは、政府の広報機関になるといっているのと同じ。マスコミとしては、白旗を揚げたも同然です」(同)

この籾井会長だが、"政治ネタ検閲疑惑"に関しては、8日の定例会見で「個人名を挙げてネタにするのは品がない」と、逆に爆笑問題に注文をつける始末。

「安倍首相は、まんまと会長の首をすげ替え、NHK乗っ取りに成功。それにしても、新たな会長となった籾井氏は、正義感を持たない人物が警察のトップに立ったようなもの。言語道断の人事です」(同)

こうした搦め手で局内の空気も変わっていったと、このNHK関係者は憤る。
「爆笑問題の太田光も件のラジオ番組で"自粛"で没にされたと言っていました。むしろ、それが問題です」

そう、これこそが安倍流操縦術の成果。
「従軍慰安婦誤報問題で朝日新聞が自滅、そんな中、権力のチェックという意味でNHKには期待が集まっていたんですが……」(前出・放送評論家)

柔らかく締めつけ、事ここに至り、安倍首相の対NHK抗争は全面勝利、数々の"検閲"がまかり通ることになった、という。さらには、直接的な"圧力"も。

安倍自民党が大勝した昨年暮れの総選挙。その解散直前の11月20日のことだ。
自民党が突然、萩生田(はぎうだ)光一党筆頭副幹事長、福井照党報道局長連名で〈選挙時期における報道の公平中立ならびに公正確保についてのお願い〉なる文書を、在京キー局に突きつけたのだ。
「文書自体は丁寧で、お願いする形を取っていましたが、その中の一文"街頭インタビュー、資料映像等で一方的な意見に偏る、あるいは特定の政治的立場が強調されることのないよう、公平中立、公正を期していただきたい"とのくだりに、多くのテレビ関係者が凍りついてしまったんです」(制作会社関係者)

街頭インタビューは、庶民が何を感じ、どう考えているか、その声や実感を伝える選挙報道にはなくてはならない大切な取材方法。
「そこには当然、権力側にとって耳の痛い話も出てくるでしょう。それを公平中立の名の下、報道するなと、事実上の圧力をかけてきたんです。この要望書以降、街頭インタビューを放送すると自民党から抗議が来るかもしれない、なら、いっそのこと、やめてしまえとばかり、各局の街頭インタビューは激減しました」(前同)

街頭インタビューだけではない。選挙報道の時間自体も、前回衆院選(12年12月)に比べて約4割も減ってしまったのだ。

「民放は、総務相から放送免許が交付され、5年ごとに更新。また、NHKの予算は国会が承認。各社には、このような"縛り"があり、今回のような与党からの要望書を前にしては、萎縮せざるをえないんです」(同)

  1. 1
  2. 2
  3. 3