以前、よくサスペンスドラマで見かけたシーンが最近、出てこない。布に染み込ませたクロロホルムを嗅がせて失神させる、あのシーンだ。
「じゃあ、なんで嗅がせている方の犯人は失神しないんでしょうね? 同じような距離なのに」と、昔ある漫才師がネタで使っていたが……そもそも失神しないんである、嗅がせた方も嗅がされた方も。これはどういうことか?

クロロホルムは、1831年に発見された有機化合物の一種。麻酔効果があることで知られており、古くは19世紀半ばにヴィクトリア女王が出産の際、無痛分娩に用いた。毒性があり、不整脈になりやすいという特徴があるため使われなくなったのだが、麻酔効果があるということが一人歩きしたのだろうか。サスペンスドラマで失神させるシーンに欠かせないアイテムになった。
しかし実際には嗅いで一瞬で気を失うことはなく、大量に染み込ませたハンカチなどを口に当て、ゆっくり大きく深呼吸を5分間くらい続けなければ、気絶しないという。つまり、嗅がされる方の“協力”が必要になってくるのだ。しかも過度の吸引は腎不全を起こして死亡する場合もあり、ちょっと眠らせるどころか永遠の眠りになってしまう可能性もあるのだ。

このことが2013年秋にテレビ番組で明らかにされると、まずそのテレビ局のドラマでクロロホルムを使用するシーンがなくなり、他局もそれに倣い……という流れになった。その結果、あの嗅がされる→一瞬で気絶というシーンは封印されたわけだ。

さて、このクロロホルムのようにドラマで“一瞬で気絶させる”シーンは他にもあるが、それらはどうなのだろうか? 例えば『みぞおちにパンチ』はどうなのか、専門家に聞いてみた。

「みぞおち部分に強い衝撃を与えると横隔膜が痙攣状態になります。結果、呼吸困難で苦しくなって意識を失う、というパターンならば多少は考えられますけど、打たれた直後に一瞬で……というのは考えにくいですね。あとは首筋にチョップ(手刀)でというパターンもマンガなどで見ますが、これもありえないですね。おそらく頚動脈を絞めると気を失うことからインスパイアされたのではないでしょうか?」(スポーツインストラクター談)

ちなみに首筋に手刀の場合、脳震とうで失神という可能性もあるが、この場合、相当な力で叩かないと脳まで衝撃が伝わらない。それほどの強さなら、首の骨を折れて死んでしまうとか……。
また、頚動脈を絞める、いわゆる格闘技の裸絞め(スリーパーホールド)で失神、俗に言う“落ちた”状態になるとしても一瞬でということはありえず、しばらく絞めて徐々に気が遠のいていくパターンだとか。

このように検証してみると、ドラマなどの気絶シーンには、かなり無理があるようだ。まぁ、ドラマはあくまでも“フィクション”ですから、そこまで目くじらを立てることもありませんが……。

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