食品を保存したいとき、ピッと切って便利に使える食品包装用ラップフィルム。その中でも売上ランキング1位なのが旭化成の「サランラップ」なのだが、実はこの商品、なんとも物騒な生い立ちを持っている。

20世紀初頭に合成樹脂「ベークライト」が誕生して以来、アメリカでは合成樹脂の研究が進められていた。その成果、無色透明で適度な弾性を持ち、着色が起こりにくい「ポリ塩化ビニリデン」という合成樹脂が生まれ、1933年にダウ・ケミカル社のラルフ・ウイリーが繊維やフィルムへの加工生産を開始する。

この合成樹脂「ポリ塩化ビニリデン」が、のちに「サランラップ」の原材料となるのだが、当初は第二次世界大戦の戦場で銃や弾丸を湿気から守るための包装フィルム、ジャングルを行進する兵士を水虫から守る靴の中敷きなどとして使われていたというのだ。まさか、食品を包んでいるお馴染みのフィルムが、かつては武器を包んでいたなんて、想像できただろうか。

戦争が終わると「ポリ塩化ビニリデン」は家庭用や運送用の商品展開を試みられたものの、あまり普及しなかったが、転機はフィルム製造メーカーの職長を務めていたラドウィックとアイアンズの2人が近所の人たちとピクニックに出かけたときに訪れた。ラドウィックの妻がフィルムでレタスを包んでいったところ、その美しさと保湿・保管効果が大変な評判となる。そこで2人は早速上司に報告。ダウ・ケミカル社から合成樹脂を取り寄せ、紙製の管に巻きつけて箱詰めした試作品が完成した。商品名はラドウィックとアイアンズの二人の妻、サラとアンにちなんで「サランラップ」と決定されたそうだ。

日本ではライバル商品であるクレハ(当時は呉羽化学)の「クレラップ」にやや後れを取ったものの、1960年に発売開始。冷蔵庫や電子レンジの普及により売上を伸ばしていったが、1990年代に「ポリ塩化ビニリデン」をはじめとする塩素系プラスチックがダイオキシン類の主要発生源と考えられ、社会問題となって不買運動も起こった。
しかし現在、ダイオキシンは塩素系プラスチックだけでなく、塩素と芳香族化合物が含まれる廃棄物を焼却処分する際、不完全燃焼になると発生すると考えられている。そのため焼却炉の性能向上、焼却ゴミを減らすために分別収集するなど、問題解決のためさまざまな対処がされている。

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