「彼女は京王井の頭線沿線に住んでいたんです。それで神泉駅が近くてすぐに帰れる円山町で、立ちんぼをしていたのではないかと」

――そんな理由なんですか?

「彼女は非常に合理的な思考の持ち主です。働く場所は通勤定期券が使えるほうがいいと考えるのは、ごく自然なことだったんでしょう」

――体を売るのも他の風俗ではなく、立ちんぼを選んだのは、すぐお金になるからという合理的な考えなのでしょうか?

「東電のエリートでプライドもあっただろう彼女が、立ちんぼという風俗でも最底辺の仕事を選んだというのが、よくわからない謎でした。1つの仮説としてですが、仕事では認められていても、女性として認められない。ホテトルに在籍していたこともある彼女は、客がつかないときもあった。それはみずからの女性としての価値を認められないことになる。だから客がつく場を探していた結果、立ちんぼということになったのでは。女性というのは男が考えている以上に、自分の体を売るということに抵抗がないんです。体が汚れる、心が荒む、そう考えるのは男の偏見で、意外と女性たちは体を売ることに抵抗がないんです。例えば援交はよくない、という意見もありますが、じゃあお金持ちの社長と結婚したがるのはいいのかと。相手の富を目当てに玉の輿に乗るのは長期間の援交とも言えますからね」

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円山町を見守る「道玄坂地蔵」


――でも立ちんぼというのは他の風俗に比べ、危険リスクが高すぎます。実際に殺されてしまったわけですし、合理的な思考をする彼女が選ぶのは、納得がいかないような気がします。

「昼とはまったく違う、立ちんぼという夜の顔。その被虐的な快楽を楽しんでいたのかもしれないですね。円山町というのは駅から離れていて、しかも坂の上にある。隔絶された非日常的、非現実的な雰囲気が満ちています。男も女も、ここでは変身できるステージなんです。彼女にとってもそれは同じです。昼間はエリートOL。夜は円山町で立ちんぼをやっている自分に酔っていたのかもしれませんね」

花街、ラブホテル、そして今は大型クラブが軒を連ねている円山町。この町はこれからも男と女のステージとしてあり続けるのだろう。











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