絶望に勝つ!『人間力』長岡秀貴(NPO法人理事長)の画像
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「ぼくが生徒にしてあげることはありがとう、ぼくはあなたが必要ですってことを伝えるだけなんです」

「自分の学校を作ろう」
深く考えず、そう思ったんです。
それで、高校の教師を辞めて、自分の出身地・長野県上田市に『侍学園スクオーラ・今人』というフリースクールを作ったんです。といっても、お金もないし、コネがあるわけでもない。ただ、毎日がむしゃらに突っ走ってきた感じですね。だから、辛いと思ったことはありませんでした。

その過程を今回、映画にしてくれたんです。いざ出来上がったものを見ると、めちゃくちゃ恥ずかしいですね。自分の恥部を全国に晒されるわけですから。ただ、嫉妬が一番でした。過去の自分に対する。
いろんな辛いことがあっても全然、動じていない。むしろ、最近の自分、落ち着いてきちゃったなと。
しんどいのは、学校を作ってからでしたね。続けていくことのほうがよっぽど大変。今は常勤職員が20人いて、毎月のお給料を払わなければならないので、金策だとか経営のことを考えなければならないんです。でも、そういうのに本当に向いていないんですよ。自分自身のスケジュールでさえ管理できていませんから。

マネジメントもそうですが、トラブルもたくさんありました。一番は、火事になったことですね。原因不明だったんですが、目の前で学校が燃えていくのを呆然と眺めていました。保険も入っていなかったから、まさに焼け出されてしまった。
そしたら、インターネット上に義援金サイトが立ちあがって、2か月で寄付金が1000万円も集まったんですよ。ただ、火事の3か月後に、3・11が起こって、学校建て直している場合じゃねーって思って、寄付で集まってきたお金をボンボン東北に送ったんですよ。

そしたら今度は、学校の支援をしてくれている人たちが各地でチャリティイベントをドンドン組んでくれて、寄付で2000万近く集まった。
そのお金で、新しい校舎を買ったんです。だから、ぼくが作った学校とは言えないんですよ。本当に人々の善意で作られた学校なんです。

そもそも、なぜ学校を作ったかというと、ぼくの高校時代の経験がきっかけだと思います。ぼくは一度、絶望を味わった。高校生の頃、脊髄の病気になり社会復帰も自由歩行もできないと医者に宣告されたんです。
車イス生活で、便所に行こうにもスロープが一人で登れなくて……。たまたま通りかかった腰が90度曲がったおばあちゃんに押してもらい、ようやく用を足せた。
もう、一人では便所にも行けないと思うと、生きていてもしょうがないなって思って、どうしたら自分の心臓が止まるのかってことばかりを考えていました。

そんなぼくのもとを毎日訪ねてきたのが、当時の担任だった小林有也先生。ぼくのクラスは教室で19人が喫煙するという、荒れまくりの学級で、小林先生は病室でぼくに愚痴るんです。"もう、辞めたい"って。

初めは、まったく先生の話を聞いていなかったんですが、あまりに愚痴るもんだから、不憫に思って、いろいろとアドバイスをしたんです。A子は先生のこと嫌っているけど、A子と仲のいいB子は先生を少し気に入っているから、B子から落としなよとか、生徒だからわかるクラスの人間関係を教えてあげたら、どんどんクラスが良くなっていったんです。
小林先生にはめちゃくちゃ感謝されて、"お前が必要だ"って言ってくれた。それがきっかけでしたね、もう一度生きてみようかなと思う。そこからリハビリをして、医者も驚くほどの奇跡的な回復をしたんです。

もし、この経験がなかったら学校を作るなんてことになってなかったでしょうね。ぼくの原体験です。この経験から、ぼくは思うんですが、人間は食欲、睡眠欲、性欲とさまざまな欲求を持っているんですが、一番大きいのは、自分を必要として欲しいっていう欲求だと思うんです。これが間違いなくマックスにでかい。
だから、ぼくが生徒たちにしてあげるのは、相談に乗ることでもないし、助けてあげることでもない。

ただ、生徒が学校に来てくれることで、ぼくの存在価値が生まれる。だから、ありがとう、あなたが必要ですってことを伝えるだけなんです。
今回の映画を見て、"あんなやつでも出来たんなら、おれだって"と思う人が現われて、日本中に侍学園みたいな学校がボコボコできたら、嬉しいですね。

撮影/弦巻 勝


長岡秀貴 ながおか・ひでたか

1973年生まれ。高校時代、野球部に所属し、甲子園を目指すが、突然の病で断念。その後、長野県内の高校教師になり、「公教育で見放されがちな若者に手を差し伸べたい」と教師を辞し、04年に『認定NPO法人侍学園スクオーラ・今人』を設立し、理事長に就任。その過程を自分自身で記した書籍『サムライフ』がこの度、映画化されることに。現在は、理事長を務める傍ら、小児科にて小児総合支援士という資格を作り、不登校の子供たちへの支援も行なっている。

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