──昔はお客さんに練習を見せてたんですよね。

武藤 だから試合前からお客がリングの周りに集まってきて、その練習が面白くて観てたんだよ。猪木さんがいた時代は、そういうのがもっともっと多かったよ。そういう練習をしていたからか、昔のプロレスは最初の立ち会いから3~5分間ぐらいは、レスリングだけの非常にいいプロレスだったよね。感情移入しやすいというかさ。

──派手さはないけど、リングに引き込まれていくというか。

武藤 そうそう。ましてや俺が育った頃の第1試合なんて、ほとんど技なんて使わせてもらえなかったから、要はそれだけで魅せられるプロレスをやっていたんだよ。そのへんが、今とは違う。今のレスラーは、そこを省くもんな。それはお客が盛り上がってないイコール興味がないんじゃないかと勘違いしてるんだよ。俺なんか、お客がシーンと静まり返ってるときが一番好きだけど、いまのレスラーは客が盛り上がってないとビビッて、次から次へと技出そうとしちゃうんだよ。

── 飛んでみたり、エルボーやチョップのような大きな音が出る技で間を繋いだり。武藤さんって、そういう意味では、昔ながらの試合をしますよね。

武藤 そして、猪木さんのプロレスもそれなんだよな。

──確かに、猪木さんの試合は、最初の手四つから、観客はじわじわと引き込まれていきますもんね。

武藤 そうそう。プロレスはあの立ち上がりが大事なのに、それをやらなくなったのは、長州さんからだよ。もう、せっかちだからさ。

──長州さんのせっかちが原因ですか(笑)。

武藤 長州さんが、そういう〝前戯〟嫌いなんだよね。で、90年代は長州さんが権力握ってそういう文化作ったら、天山(広吉)も小島(聡)も(佐々木)健介も、みーんな長州さんみてえになっちゃってさ。それで長州さんみてえなプロレスがはびこるようになっちゃったんだよ。

──「はびこる」って(笑)。

武藤 ロックアップ、ヘッドロック、ロープに振ってタックルって、み~んな試合の始まり方が一緒だもんな。それで「うわ~っ!」って大声出してのストンピングね。

──そう考えるとある意味、武藤さんって猪木スタイルを今も引き継いでる数少ないレスラーなんですね。

武藤 そうかもしれない。長州さんの影響をまったく受けなかったのは、俺とか蝶野ぐらいのもんだからね。俺自身、今になって、自分が猪木さんの影響を受けてるなって思うことが多いよ。

──では最後に、武藤さんが考える、猪木さんの凄いところってなんですか?

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