自国で起こったテロに狼狽する隣国。平身低頭で謝罪する裏には、みっともない軟弱な訳が隠されていた。

事件が起きたのは、3月5日の午前7時42分――。
この日、リッパート駐韓アメリカ大使は、韓国の市民団体がソウル市内のホテルで開催する朝食会に出席し、講演をする予定だった。
会場に到着した同大使は前方中央のテーブルに座り、食事を取ろうとしたまさにその時、事件は起きた。

反米運動家を自称するキム・ギジョン容疑者(54)が、刃渡り25センチのナイフを片手に米大使に近づくや、いきなり切りかかったのだ。
「大使は顔や手を80針縫う大ケガを負いました。結果的に、命には別条ありませんでしたが、あと2センチずれていれば頸動脈を切られ、最悪、命を落とす可能性もありました」(全国紙外信部記者)

凶行を演じたキム容疑者は、南北交流が活発だった金大中(キムデジュン)、廬武鉉(ノムヒョン)両政権の時期に計7回、北朝鮮を訪問したこともある親北朝鮮の左翼活動家だった。
「会場の警備に当たっていた警察官らに取り押さえられたキム容疑者は、"戦争訓練反対"などと叫んでいたことから、3月2日より行われていた定例の米韓合同軍事訓練に対する抗議のための犯行だったと思われています」(同じ記者)
この襲撃事件に韓国社会は大慌てとなった。
「韓国のマスコミ各社は"韓米関係に影響なし"と連日、キャンペーンを張り"火消し"に躍起です。また、リッパート大使のツイッターには、韓国国民からの"本当に申し訳ない""韓国の恥だ"などの謝罪のメッセージが大量に見受けられました」(全国紙政治部記者)

事件2日後には、ソウル市内にある米大使館の前で、「大使を愛しています」などと書かれたプラカードを掲げた人たちによる"謝罪デモ"まで敢行された。
慌てふためいたのは青瓦台(韓国大統領府)も同じだった。
事件が発生した5日の午後には、中東訪問中だった朴槿恵(パククネ)大統領が、わざわざ同大使に電話でお見舞いの言葉を伝えた。
「中東歴訪から帰国した9日にも、その足で入院中のリッパート大使の下に駆けつけて"大使が毅然と対応した姿に米韓両国民は深く感動した"と、歯が浮くようなオベンチャラまで口にしています」(同じ記者)
確かに、自国に駐在する外国の大使がテロの被害にあえば、自国政府として手厚い対応をするのは当たり前だろう。

しかし、このテロの被害者が日本大使だった場合、はたして韓国政府は同じような対応をしたのだろうか。
「いや、それはありえないでしょう」
と言うのは、韓国事情に詳しいジャーナリスト。
「実は、このキム容疑者、5年前の2010年7月にも、当時の駐韓日本大使だった重家俊範氏にコンクリート片を投げつける事件を起こしたんですが、その際の韓国政府の対応はズサンなものでした。韓国外相が電話で日本政府に遺憾の意を伝えたのみ。朴大統領による今回の対応とは、雲泥の差ですよ」

さらに、量刑に関しても大きな"格差"が見込まれている。
「日本大使への事件の際は、キム容疑者は懲役2年、執行猶予3年。つまり、実刑判決を受けなかったんです。その一方で、今回のアメリカ大使切りつけ事件に関しては、殺人未遂のほかにも、国家保安法違反など複数の適用が検討されており、実刑判決、しかも懲役10年以上は、ほぼ確実だと見られています」(前出の外信部記者)

確かに、5年前の事件では、日本大使にケガはなく、大使館職員が手に軽傷を負ったのみ。単純に、今回の切りつけ事件とは比較はできない。だが、
「キム容疑者は、竹島を巡り、抗議運動を展開する市民団体『独島守護団体』の代表を務めており、07年に大統領府前で焼身自殺を試みるなどのいわくつき人物。韓国当局のブラックリストにも名を連ねているそんな男を、逮捕しておきながら、執行猶予付きで野放しにするなんて考えられませんよ」(同)

政府が政府なら、国民も国民だ。
「日本大使の事件の際は、"第2の安重根"との声がネット上にあがるなどキム容疑者は英雄扱いでした。『独島と私たち、そして2 010年』というタイトルで、日本大使にコンクリート片を投げつけるまでのキム容疑者の人生を振り返る自叙伝まで出版されていましたからね」(同)
なんともはや……テロリストを英雄扱いとは、もはや開いた口が塞がらない。

  1. 1
  2. 2
  3. 3