ただの老化現象と侮っているうちにじわじわと症状は悪化。家族の幸せのためにも早めの対策がカギを握る。

「なんとなく様子がおかしいけど、もしや認知症!?」
70~80代の親を持つ中高年世代なら、老化した親の行動に、ギクリとした人も多いのではなかろうか。

「認知症の患者数は現在、約460万人で、65歳以上の7人に1人程度の割合。75歳以上になると、その数は急増するため、社会の高齢化に伴い、10年後には5人に1人、約675万人になる見通しです」(医療ジャーナリスト)

忙しさにかまけて、親の異変に見て見ぬふりをしがちだが、それが症状を悪化させてしまうという。
「認知症の完治法はまだありませんが、早期発見で進行を遅らせることは可能です。早めの診断、対処が重要です」(同)

そこで本誌は、親が認知症になったときに知っておくべきことを徹底調査。慌てないための重要事項20をリストアップした。
まずは、自分の親が認知症かどうかを見分けるためのポイントから。
(1)急に怒りっぽくなった、 (2)食事や入浴などの体験そのものを忘れてしまう、 (3)同じことを何度も聞く、などは認知症の典型例と心がけよう。

「怒りっぽくなるのは、自分の判断力低下にイライラする結果。また単なる物忘れでは、何を食べたかを忘れても、食事したこと自体を忘れることはありません。同じことを何度も聞くのも、"返答された"という記憶をそっくり失っているためです」(認知症専門医)
だが、こうした特徴から認知症だと判断しても、ストレートに指摘してはダメ。
「年老いた親がトイレの場所を間違えたり、洋服箪笥(だんす)に食品をしまうなどしても、(4)失敗を叱ったり、大声で騒ぎ立てないこと。認知症の初期は本人も記憶が薄れていく自覚があり、落ち込んでいます。それなのに叱ったりしたら本人のプライドはズタズタです」(前同)

また、
「(5)間違ったことを言っても、訂正しないでください。否定されたことがストレスとなり、余計に混乱させますし、症状の進行を早めることにもなり得ます」(同)
たとえば、すでに食事をしているのに催促された場合は、"さっき食べたでしょう"ではなく、"すぐ作るから"と優しく受け流すのが正解とのことだ。

さらに、会話の際には、(6)情報を一つずつ伝える配慮が必要だ。
「寝室で着替えてほしい場合は、"寝室に行きましょう"と連れて行き、寝室に着いてから"着替えましょう"と声をかけてください。認知症になると、複数の内容を一度に理解することが難しくなるんです」(同)

では、症状が見られた場合、本人を受診させるにはどうすればよいのか。
これも、"認知症らしいから"という理由では本人を傷つけかねない。さらに、受診拒否されると、その間にも症状が進んでしまう。
『光嶋法務・経営コンサルティング事務所』(東京都新宿区)代表で、社労士・フィナンシャルプランナーでもある光嶋卓也氏は、本人の抵抗の少ない(7)物忘れ外来(認知症外来)の利用を勧める。
「"精神科""神経科"などの看板が掛かっているところでは、本人も"何で!?"となりがちですから。受診を勧める際も、"最近、定期健診してる?"などと抵抗のない話から入り、本人が"行ってない"というと、"じゃあ、今度自分がいい病院知っているから"などと導く工夫も大切です」

さて、受診の結果、認知症と診断されたら、(8)介護保険を申請しよう。
介護保険は、認知症や寝たきりなどで介護が必要な高齢者(65歳以上)に対し、住み慣れた場所で暮らせるように、40歳以上の人が保険料を出し合う制度。本人は1割負担で済む。
「記憶障害などがあっても、認知症初期には食事、歩行、入浴など生活面で自立できている方もいます。しかし、残念ながら認知症は次第に進行します。実際に介護が必要になったら、慌てず、また不利益を被らないように、早めに申請しておきたいですね」(光嶋氏)

実際に、認知症高齢者の約3人に2人が介護保険を利用しており、その数約280万人(10年度。厚労省統計)。申請は本人の最寄りの自治体の『地域包括支援センター』(『熟年相談室』など別名のことも)へ。むろん、家族が代理で申し込んでもいい。
「介護保険申請時には、適正な認定を受けられるように努めましょう。というのも、認知症の進み具合によって要支援1から2、要介護1から5まで7段階のランクがありますが、認定基準は案外厳しいんです」(前出の医療ジャーナリスト)

1番ランクの低い要支援1だと利用限度額は月に約5万円(自己負担額は約5000円)。最高ランクの要介護5だと約36万円(同・約3万6000円)。ランクが1つ上がるたびに、約5万円の差がつく。

  1. 1
  2. 2
  3. 3