自分自身がこのテーマに興味を持ち始めたのは2006年。取材は2008年から開始した。セタスはその暴力性で知られているが、どのカルテルも同様に凶暴性を秘めている。個人的なイメージとして抗争が激化したのは2006~2007年。カルデロン大統領の政策が変わった時だと思う。

メキシコにおいて警察は腐敗しているが、軍の方がまだ腐敗が少ない。それを国が直接動かしたことで、各カルテルのメンバーは身を守るために市民社会の中に溶け込んでいった。それによって各カルテルの弱点ができて、縄張り争いが激化してしまった。ストリートでの価値感やそれまでのルールはその時点で塗り替えられてしまったんだ。



映画はドキュメンタリーの一般的な手法であるインタビュー形式ではなく、撮影者自身をも作品の中に存在させるシネマ・ヴェリテ的な手法を採用。麻薬組織を讃える音楽ジャンル、ナルコ・コリードの歌手、エドガー・キンテロと、アメリカと国境の都市で警察官として働くリチ・ソトを対照的に描いている。

意外なことに、ある種の市民にとって麻薬ギャングは憧れの存在。金と権力を持ち、中央政府に対抗するヒーローとして扱われる。アメリカ在住のキンテロはギャングに憧れ、その世界観を賛美する。一方で警察官として真面目に働くリチ・ソトは他に職がない現状、腐敗する警察組織などの狭間で揺れ動く。

『皆殺しのバラッド/メキシコ麻薬戦争の光と闇』は麻薬ギャングをとりまく一般社会の状況がリアルに描かれているが、その取材は苦労の連続だったと言う。

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