本当の強さを探究し続ける『人間力』佐山聡(武道家)の画像
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「本当の強さとは何なのかと考え始め、行きついたのは、無意識を強くすることでした」

日本のマットにタイガーマスクとして初めて上がったのは、昭和56年4月23日でした。
当時、イギリスで武者修行中だったのですが、思いのほか現地で活躍できて、その日は、世界チャンピオンのタイトルマッチ戦だったんです。だから、日本からの帰国要請をお断りしようと思っていたんです。

ただ、かつて猪木さんの付き人だったので、猪木さんの顔を立てようと思い、タイガーマスクになったんです。それに、これは1回だけのお祭りみたいなイベントだと思っていたので、1試合終わったら、すぐイギリスに帰ろうと思っていました。
そう思ったのは、マスクがマジックペンで描いたような手作り感が満載のものだったし、マントは単なるシーツだったから(笑)。

当日、そのマスクとマントで入場すると、会場は冷笑でしたね。恥ずかしくて、恥ずかしくて、早く終わりたかった(笑)。
相手は、ダイナマイト・キッド。スピード感のある選手でしたので、もの凄い動きの応酬。
そこで、空中後ろ回し蹴りを放ったんです。イギリスでこの技を出すと、観客は総立ち、大騒ぎして盛り上がるのに、日本では無反応。

早くイギリスに帰ろうって気分でした。でも試合後、「帰るな!」と言われ、初めて観客が呆気に取られて、声が出なかったということに気がつきました。そこから、気がついたらスターのような扱いになっていて、"こりゃあ、帰れないな"って(笑)。
結局、新日内で紆余曲折があり、猪木さんに恩を感じていたので悩みましたが、2年でマスクを外した。

プロレスを始めたのは17歳でした。高校1年のとき、アマチュアレスリングの大会で優勝。高校を中退して新日本プロレスに入門したんですが当初、技術力と体力差があり過ぎて60連敗くらいしましたね。
プロはアマチュアと違うと思い知らされ、キックボクシングを始めたり、ウエイトトレーニングも必死で取り組みました。寮の自室に「真の格闘技は、打撃に始まり、組み、投げ、最後に関節技で決まる」という標語を貼りつけていたのもこの頃。

19歳のとき、とにかく強くなりたかったので、プロレスにとどまらず格闘技にも挑戦したんです。猪木さんに「総合格闘技をやりたいんです」とお願いすると、賛成してくれて「お前を第一号の選手にする」と。早速、キックボクシングの試合に出させてもらったんですが、7回でダウンして判定負け。ただ対戦相手はいきなり、全米1位の選手だったんですよ。めちゃくちゃするなって思いましたね(笑)。

その後、プロレスラーとしての修業を積んでいったんですが、総合格闘技が頭から離れませんでした。
その思いが叶ったのは、新日脱退後の26歳。総合格闘技「修斗」という競技を作ったんです。スポーツというより、武士道をベースに精神的な要素を重視したものでしたが、若過ぎたのかうまくいきませんでした。

若い時は強くなりたいと、がむしゃらだったんですが、その頃になると次第に、そもそも本当の強さとは何なのかと考え始めるようになったんです。リング上では強い選手が、リング外では、女の子を追いかけて、泣いちゃったり、金で苦労していたりと。そういう選手をたくさん見ているうちに、それは本当に強いと言えるのかと疑問を持ち始めたんです。そこで、武道の歴史から始まり、その精神、思想、哲学、心理学などをかたっぱしから勉強しました。
その結果、たどり着いたのが、無意識を強くすることでした。人は意識していない自律神経などの働きで知らず知らずのうちに自分の力をセーブしてしまっていたり、あるいは普段以上の力が出せるんです。

そこからさらに、勉強して生み出したのが、掣圏真陰流。掣圏は距離感です。心の距離感です。それをどう制すか。陰っていうのは無意識です。つまり、無意識のなか、どうやって距離感を制すかってことを極めるわけですね。距離感は、女性関係でもいいですし、ナイフを持っている凶暴な相手でもいいです。

それを極めることが本当の強さなのではないかなと思っています。日本にある様々な流派、そういうのを全部超越したものを構築したいですね。

撮影/弦巻 勝


佐山聡 さやま・さとる

1957年11月27日、山口県生まれ。山口県立水産高等学校に入学するが1年で中退し、新日本プロレスに入門。78年にメキシコへ渡り、「サトル・サヤマ」のリングネームでNWA世界ミドル級王座を獲得するなど活躍。2年後に渡英し、ブルース・リーの従弟こと「サミー・リー」のリングネームで大活躍する。その後、タイガーマスクのリング名で日本のマット界に旋風を巻き起こすが、2年強で引退。総合格闘技の元祖・修斗を創設。現在は掣圏真陰流興義館総監を務め、武道家、思想家として活動中。

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