心の飢えを満たすために盗む

このように時代を映す鏡でもある万引きの現場では、昨今、喧伝される「景気回復」の恩恵に授かれない、庶民の姿が多く見られるという。
「何を盗るかで、生活のレベルが見えます。最近感じるのは他人への嫉妬、つまり自分の生活が落ちても周囲と同じじゃなきゃイヤだ、という歪んだ平等感による万引きの増加です。ちょっと高級なお菓子やスマホグッズなどを盗むんですが、それを手に入れて"自分は周りと同じレベルだ"と、安心したいんでしょうね。あと、子どもたちが心配ですよ。今の万引き少年はわかりやすい不良は少なくて、暗いオタクっぽい感じの子が多い。先日も10代の4人組を捕まえましたが、全員、親が離婚していた。もちろん、片親でもちゃんとしつけをしている親御さんもいますが、彼らは自分たちの絆を深めるために万引きをやっていた。共犯関係になって仲間意識を強めたり、何個も盗ってきて友達に配ったりするんです」

"心の飢え"を満たすための万引き現代ニッポンの病理が、そこにはある。
「最近、明らかに精神的な病を抱えている万引き犯が増えました。心の中の貧しさが万引きを引き起こしている。先日、それぞれ別の現場で2人の中年男性を捕まえたんですが、思い詰めた感じで何かおかしかった。この2人、荷物の中に揃って出刃包丁を持っていました。聞けば"無差別に人を殺して刑務所に行こうと思った"と言う。こんなヤツが街を歩いていると思うと、ゾッとしますよ」

万引きの年間被害額は1兆円を超えるとも言われる現在。そこからは、日本社会が抱える「貧困の現実」が透けて見える。

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