奇病、もしくは集団ヒステリー、あるいは陰謀論……そんな不可思議なトピックが世間を賑わせている。
にわかに注目されるようになったのは、カナダ出身でグラミー賞を9回受賞、1997年にはロックの殿堂入りを果たした世界的なミュージシャン、ジョニ・ミッチェルが4月に倒れ意識不明で病院に運ばれたことに端を発する。彼女は以前から「モルゲロンズ病」に悩まされていたそうで、ネットユーザーを中心に、この病に対して過敏に反応した格好だ。

モルゲロンズ病とは、皮膚の下を寄生虫などが這い回るような痒みに襲われ、その部位をかくとナノファイバーのような色とりどりの繊維が出てくるという、謎の病気。彼女がこれにより病院に運ばれたかどうかは不明だが、「もしや?」と思う人が多かったということだ。

ところが実情は異なる。というのも、このモルゲロンズ病は医学界ではネットのミーム=オンラインで人から人に感染する「集団妄想」とされているからだ。きわめてオカルト的であり、病気として実在を確認されていない。CDC(アメリカ疾病予防管理センター)が2012年にまとめた調査報告でも心身症として片付けられている。アカデミック的には「ない」ということだ。

そもそもこの病気、2002年にペンシルバニア州在住の生物学者が、息子の皮膚病の診断に納得できず「1600年代にあったモルゲロンズに症状が似ている」とブログで紹介したのをきっかけに、その名称が定着したもの。これを受けて、似たような症状に悩む国内外の人から問い合わせが殺到したという経緯がある。
そのブログからネットを通じ、モルゲロンズ病の名前はワールドワイドに広がっていった。似たような症状に苦しむ人は意外に多かったようで、加速度的に“患者”が増えていった。中には妄想ではないという証拠に、皮膚から出てきた繊維を動画や写真で投稿する人もいたが、どうもその信ぴょう性は疑わしい。そもそも寄生虫が皮膚下を這い回るような感覚に襲われる、というのは精神疾患者に多く見られる症状であるからだ。ネットミームといわれているのも、そのためなのである。

いずれにしろ、ネットが発祥で感染者を増やした、この病気。そういった点では、本人の意思とは関係なく身体が動いたり声が出る(時には罵詈雑言を吐くことも!)、「トゥレット障害」に似ている。
この病は、ニューヨーク州ジェネシー群にあるリーロイ高校の在校生15人、約80㎞離れたサラトガ群コリンス村に住む子ども2人に発症が見られているが(うち16人が女性)、原因、相関関係などは不明。集団ヒステリーと診断する医師もいるが、詳しいことはいまだわかっていない。

モルゲロンズ病もトゥレット障害も、ウソかマコトか、真相は定かではない。ただし、現代はネットで情報を共有できることから、今後もこのような奇病が増えていく可能性は高いといえるだろう。

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