2015年4月21日、JR東海は山梨リニア実験線で世界最速603kmを記録、実用化に向けてまた大きく前進した。東京〜大阪間を67分で結ぶ中央新幹線は2045年に全線開業を予定している。飛行機と同レベルの速度で運行される超高速列車は、まさに21世紀にふさわしい次世代鉄道だが、その実現を不安視する声もある。
電磁波による健康被害や過剰な電力消費が循環型社会のポリシーに反するといった問題は、たしかに検証していく必要があるだろう。しかしもっと現実的な話がある。
土だ。

中央新幹線は約88%がトンネルだ。南アルプスを地下40mの大深度で掘りぬいた、全長500kmの地下鉄と考えるとイメージしやすい。問題はトンネルを掘った時に出る残土の処理である。この処理をどうするのかが明確ではないのだ。
東京〜大阪間の工事で約5680万立方メートルの残土が出るとされているが、東京都の最終処分場での受け入れ量が年間1360万立方メートルなので、想像できないほどの量だ。通常、こうした残土は工事現場の周辺で住宅地の造成などに使われるが、中央新幹線が走るのは山の中である。土を使う場所などない。谷に放り込んで、谷を埋めるぐらいしか方法はないが、慎重にやらなければ水害が発生する。

またトンネル工事でさらに懸念されるが水脈の切断だ。山梨のリニア実験線でも、実験線の延伸工事で地下水脈が断たれ、生活水として利用していた集落で断水騒ぎが起きた。南アルプスは大井川などの大河川の源流であり、ここが断たれると下流に大きな被害が出る。
これは周辺住民の生活に直結する災害リスクである。

この被害をどのように避けるのか? 大深度に超高速列車を通すという例のない事業の上に、起こりうるリスクをどう回避していくのか? 現在、全線開通には約9兆円が見込まれている。しかし残土処理費用が低く見積もられているという意見もある。現場周辺の集落で残土処理ができる前提で、予算が組まれているのだ。JR東海の単独事業でスタートしても、もしかしたら最終的に国の予算が投入されることになるかもしれない。そうなると、反対意見も今以上に大きく出てくるだろう。

一方で、こうした巨大プロジェクトはスピンアウト技術も大きい。衛星を使う地質調査や大深度開発の技術は飛躍的に高まるだろうし、超電導コイルが大量生産されることで、電気を利用する次世代モビリティの価格が一気に下がる可能性は高い。価格面から実用化に至っていない超電導を利用した蓄電技術や抵抗値が極めて低い超電導ケーブルも、実用化されるだろう。リニアモーターカーの実用化は、非常に広い分野で企業の株価を跳ね上げることになるはずだ。
中央新幹線は環境にいい悪い、健康に影響があるない、交通としてあるなしの単純な二元論で語られがちだが、そんな単純化では重要な視点が抜け落ちてしまう。メリットとデメリットをどのように天秤にかけるか? 事業開始前の今だからこそ、その精査が必要なのだ。

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