最大の敵は武道館擁する空手

さらに、2月27日に組織委と東京五輪のゴールドパートナー契約(国内最高位のスポンサー契約)を結んだアサヒビールの小路明善社長も「個人的には、野球が入ってくれればうれしい」と表明。組織委も、最大のスポンサーの意向は無視できないだろう。組織委関係者が言う。
「これまで五輪憲章では、夏季大会における競技数は28、選手数は1万500人という上限が定められていました。追加競技が加われば、その上限を超えるわけですが、開催都市が、その上乗せ分の経費を負担すれば、問題ないという方向で話が進んでいます」
だとすれば、組織委としても、黒字が見込める競技に傾くのは当然だ。
「その点、野球は1試合につき、5万人近い観客の入場料収入を確保できます」(前出のNPB関係者)

IOCから東京五輪の放映権料を660億円で取得したNHKと民放各局からも、こんな思惑が透けて見える。民放関係者は言う。
「特に民放は、CM収入で巨額な放映権料を埋めなければなりませんが、正直言って赤字を覚悟していました。でも、13年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)のオランダ戦で野球は、44%台の瞬間視聴率を叩きだしています。五輪で日本代表が金メダルを目指して戦えば、1試合で億単位のCM収入も夢ではありません」
まさに野球は、東京五輪にとって"ドル箱"となる競技なのだ。しかも、稼げるのは、入場料収入やCM収入だけではない。経済波及効果も計り知れない。

経済アナリストの森永卓郎氏によると、
「個別のプロ野球チームが優勝した際の経済効果は、300億円~1000億円と言われています。五輪の場合、優勝セールがありませんが、その分を差し引いたとしても、かなりの数字は期待できるでしょう」
だが、すんなり野球に決まるかというと、いくつかまだ障害があるという。
「何しろ、組織委の森会長のところは、門前市をなす賑わい。"東京五輪で追加競技が認められるなら、ぜひウチも……"と、それぞれの国際競技団体代表が、海外からわざわざ訪れるなど、PR活動が加熱。森会長も"表敬を受けるのは(各団体とも)1回ずつ"などと、クギを刺すほどです」(前出のライター)

東京五輪に意欲を見せる競技は、野球&ソフトボールのほか、空手、スカッシュ、ウエークボード、ボウリング、スポーツクライミング、綱引き、ビリヤード、ローラースポーツ、ダンススポーツ、3人制バスケットボールの計11競技。
「これを機に、競技としての知名度を上げようという売名行為もありますが、なかには、本気で"本命の野球・ソフトボール潰し"にかかろうとしている団体もあるんです」(同)

目下、野球の最大のライバルは、聖地・日本武道館を東京に擁する空手だろう。日本発祥のスポーツだけに、野球支持派には不気味な存在。また、意外な伏兵として綱引きが。
「綱引きは、1900年から20年にかけて、五輪陸上競技の種目だった時代があるんです。最大の売りは誰でも参加できるところ。"参加することに意義がある"という五輪精神からすると、意外や意外、強敵かもしれません。それからスカッシュ。野球の場合、全チームの参加人数は300名を超え、運営費がかさみますが、スカッシュだと2種目64人で実施できる。会場も移動式コートを使うため、費用もかかりません」(同)

一方、野球には前述したように"ドル箱競技"としての強みのほか、東日本大震災の被災地からの誘致活動も追い風だろう。
「IOCは、東京以外の都市での競技開催を認めました。その結果、野球の会場として被災地の自治体が名乗りを上げているんです」(前出の組織委関係者)
たとえば、震災で400人以上の犠牲者を出し、今なお、原発事故の風評被害が残る福島県いわき市。
「市では、13年にプロ野球オールスターを開催した"いわきグリーンスタジアム"を想定し、野球の力で復興を加速させたいと、誘致活動を進めています」(いわき市関係者)
このほか、福島市も野球とソフトボールの会場として名乗りを上げている。
早くも、東京五輪での開催球場までもが話題になりはじめた野球――。

また、野球ファンとしても5年後、どんな日本代表メンバーが揃うのか、楽しみなところだろう。野球評論家の江本孟紀氏は、
「5年後の開催ということは現在、20歳から22歳の選手が中心になりますね」
と言う。ファンとしては"キャッチボールCM"に参加した大谷や藤浪らの世代に、日本のエースとして期待したいところだ。江本氏が、こう続ける。
「アマチュアの選手にも、注目したほうがいいでしょう。たとえば、このセンバツ高校野球で優勝した敦賀気比高校(福井県)のエース(平沼翔太君)とか……。え、監督? そりゃ、やっぱりプロ野球監督経験者ということになるんでしょうが、みんな多忙だからね。なんなら、僕が引き受けてもいいですよ(笑)」

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