原発作業員や福島の住民を傷つける"無神経な都市伝説"

地元民の帰宅に作業員の増加、周辺の繁華街は活気づいていることだろう。
「僕がいたいわきは2年前も賑わっていましたので、それほどの変化は感じませんね。ただ、2年前は他県産しか食べられなかった名物のメヒカリも、今では日によっては、いわき産が市場に並ぶことがあるそうです」

しかし、彼ら作業員が毎日、地元のうまい飯にありつけるかと言えば、そうではない。
「最もよく行く店は?」
という質問に、
「う〜ん……コンビニかな」
と竜田氏が答えたのが象徴的だ。

「まあ、店がないですからね……。楢葉町周辺の昼時のコンビニの盛り上がりは、尋常じゃないですよ。駐車場は満車、レジは長蛇の列、店から人があふれ返っていますからね。だから、コンビニは、新しいのができていっていますね」

賃金面の事情も聞いた。
「事故直後から数か月間は、"その間に働いた給料で新車を買った"という人がいたようですが、今は無理ですね。高線量な場所での業務の給料は高いですが、年間に浴びられる放射線の量は決まっていて、規定量を超すと翌年の4月まで働けなくなりますからね」

かつては、高給現場で働き続けるためにAPD(線量計)に細工をして、線量をごまかす作業員もいたと報じられたが、
「APDを鉛のカバーで覆うとごまかせるという噂ですよね。でも、その気持ち、わからないでもないんです。50ミリシーベルト(放射線作業従事者の年間被曝の上限)を浴びようが、体に影響がないのはわかっているので。"放射線のせいで鼻血が出た"という人がいるけど、放射線の影響で本当に出たなら、その人は今、生きているのが不思議なレベルですよ。そういう都市伝説はよく聞きますが、現場作業員たちは、"何バカなこと言ってんだっぺ"と呆れています」

竜田氏が何より憤っているというのが、こうした"無神経な都市伝説"だという。
「たとえば、白血病を発症した場合の労災認定基準が"年5ミリシーベルト以上の被曝"ですが、それは労災の認定基準なだけで、それだけ浴びたら病気になるという意味ではありません。すぐに"あなたたちは病気になる"とする見方は、原発作業員や福島の住民に対して、"無意識の差別"を振りまいているということを自覚してほしいです」

廃炉作業が終わるまで数十年がかかると言われる福島第一原発。竜田氏が描き続ける"1Fの現実"を、我々は今後も見守っていくべきではないだろうか。

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