傾く心の『人間力』氏神一番(ロック・アーティスト)の画像
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「世間からつかずはなれず、まるで朝顔のように艶やかな花を咲かせる。それが傾奇者なんです」

拙者は大学時代に1年間、アメリカのバークレーに語学留学をしたんです。ホームステイ先の部屋の本棚には、歌舞伎、能とかの日本の伝統文化の本がたくさんあって、おまけに浅草の土産物屋で売っているような提灯が飾ってある。

80年代初めの当時は、日本ではサーフィンが流行っていて、街は顔を真っ黒にしたサーファーだらけ。アメリカかぶればかりで、日本文化はダサかった。だから、アメリカ文化を学びに行ったのに、滞在先のジョージおじさんは、「建国たった200年のアメリカには文化がないんだ。それに引き換え、君の国には何千年という歴史と文化があるじゃないか」って言うわけです。ジョージにロックをやりたいと言うと、「アメリカの真似なんかしないで、日本のロックをやればいいんじゃないか」と。

帰国後、そうかとばかりに、日本の伝統文化を考えました。すると、相撲、能、歌舞伎の3つが残った。能ロックは地味。相撲ロック、ふんどしかよ、太ってねーし(笑)。それで、歌舞伎ロックになったんです。
当初は、箏とかの和楽器を入れ、11人編成でやっていたんです。でも、集まるの大変だし、伝統音楽を扱う雑誌『邦楽ジャーナル』に載っても、読者のおじいちゃんが考え込んじゃうだけ。ロックやるんだったら、若い女性がたくさん来て、キャーキャー叫んでくれなきゃ(笑)。

で、5人のバンドになった。歌舞伎の衣装に隈取のメイクで、原宿の歩行者天国でやりだすと、まず、海外メディアが取材に来て、海外で有名になった。それから『イカ天』に出て、あっという間に売れっ子になったんですよ。

全盛期は、日本の伝統文化をバカにしているのかと批判の声も多かった。ただ、拙者のテーマでもある歌舞伎の「傾(かぶ)く心」とは、世間が朝顔の巻き付く芯だとしたら、その芯に蔦のように巻きつく朝顔そのものなんです。常識外れの行動はしても、世間から本当に逸脱したら、落伍者か廃人になってしまう。世間からつかずはなれずのところで、まるで朝顔のように艶やかな花を咲かせる。それが傾奇者(かぶきもの)なんです。

だから、歌舞伎ロックは、「傾く心」にのっとった物だったんですが、ブームは2年半で終わり(笑)。
正直な話、その時に1000万円くらい手元に残ったんですけど、気がついたらなくなっていた。衣装とか、"東急ハンズで買ったの?〞とかよく聞かれるけど、特注なの。だから、お金もかかるし。普段の生活でも安い酒を飲みたくても、"氏神が安酒飲んでる〞なんて言われると思うと、つい高い酒買っちゃうしね(笑)。

ただ、人気も下がり、CDも売れなくなったら、今度は拙者の江戸知識が役立ち、江戸に関する本のオファーが来た。意外にも売れて、講演依頼とかも来て、糊口をしのげた。
しかし、と今思う。最近の日本には自由がなくなった。これを言うな、あれをしちゃあいかんと自主規制ばかり。3・11後に、被災地に慰安に行きたかったが、この隈取りに衣装じゃふざけているとしか思えない、顰蹙を買うと断念させられた。しばらくして行ってみると、地元の人たちはそんなことないと言う。拙者にもう少し「愛」を実践する勇気があったならば、と忸怩たる思いが残る。

「愛」は、「傾く心」と同じくらい拙者のなかでは大きなテーマ。かつて拙者も経験があるが、イジメられる子は頭も良く、プライドも高く感受性も強い。だから、自殺という不幸な結果を招くこともある。「イジメ」と「イジリ」の違いは、そこに「愛」があるかないかの違い。拙者もバラエティ番組なんかに出るとイジられる。だが、勇気があれば、そこに「愛」を感じ取ることも出来る。そんな思いから、『ヒトにはバカにされておけ!』のCDを出した。

面白がってイジメているヤツに対し卑屈になるか、プラス思考で乗り切るかが分岐点になる。「愛」があれば、それで仲良くなれる。「愛」がなければ、「愛」で応える。ダサい言葉だけど、これからも、「愛」を持ち、そして、「傾く心」で生きていきます。

撮影/弦巻 勝


氏神一番 うじがみ・ いちばん

元禄3年4月3日、京都府生まれ。325歳。『カブキロックス』としてデビューする前は、俳優経験もあり、『大都会PARTⅢ』に出演している。大学卒業後は、サラリーマンをしながらバンド活動も行い、『平成名物TV 三宅裕司のいかすバンド天国』(通称・イカ天)で大ブレイク。以後、リーダー兼ボーカルとして活躍。今年デビュー25 周年を迎え、同バンド初となるベスト盤『NOW&BEST ~今昔詩歌集~』を元旦に発売。発売記念ライブは満員御礼、デビュー当時を知らない世代にもその存在を知らしめた。「2020 年に開催される東京オリンピックの開会式で『お江戸-O・EDO』を唄いたいで御座る!(笑)もうひと花咲かせる!」と意気込む。

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