安保関連法案が成立すれば、多様な任務に直面することになる自衛隊。24万自衛官の偽らざる“胸中”とは!?

国論を二分する「安保関連法案」が5月14日、閣議決定された。翌日には国会に提出され、26日から本格的な審議が始まる。
「同法案は、大きく二つに分類されます。一つは、交戦中の他国軍への後方支援を可能とする"国際平和支援法案(新法)"。もう一つが武力攻撃事態法やPKO(国際平和維持活動)協力法など10本の現行法をまとめて改変する"平和安全法制整備法案"です」(自民党国防族議員)

これら法案が成立すれば、自衛隊を国会の事前承認を経て、迅速に紛争地に派遣することが可能となり、さらに、わが国の安全保障上、長年の課題と言われた集団的自衛権の行使が限定つきながら可能となる。
その際、日本と密接な関係にある国が攻撃された場合、政府は"(日本が)存立危機事態"にあるかどうかを判断するという。
「抽象的でわかりにくいですが、要するに、"これは日本が攻撃されたのと同じ深刻な非常事態である"と判断されたら、自衛隊は限定的ではありますが、他国軍と一緒に戦うことが可能となるわけです」(同国防族議員)

安倍晋三首相はこれら11法案を総称して「平和安全法制」と呼び"平和"目的を強調したが、野党側の反発は大きかった。

"安倍嫌い"で知られる社民党の福島瑞穂前党首は、4月の参院予算委で、平和安全法制を"戦争法案"と攻撃してみせた。すると安倍首相は「"戦争法案"などと無責任なレッテルを貼るのではなく、中身ある議論をしたい」と応戦。安保関連法案を巡り、与野党の対立が鮮明になっている。

「この発言を機に、安倍首相の思惑とは逆に与野党激突の構図が鮮明となってしまいました。野党側は、まず法案の名称にクレーム。さらには、10本の改変法案をひとくくりに審議することにも猛反発。国会審議の"入り口"から、大波乱の様相を呈しています」(国会詰め全国紙記者)

安倍首相が敬愛する祖父・岸信介元首相は在任時、日米安保の改定に踏み切り、学生運動ほか、国内で大きな反対運動を招いた。いわゆる「60年安保闘争」である。孫の安倍首相も、今国会での法案成立を目指すが、状況は緊迫しており、さながら、"平成の安保闘争"といった趣すら漂う。
「最大野党の民主党も反対の立場。ただ、同党の野田佳彦前首相も集団的自衛権行使容認が持論でした。民主党には、安保国会を政局にすることは慎んでもらいたい」(前出の国防族議員)

安全保障問題に詳しい軍事ジャーナリストの井上和彦氏が言う。
「野党や一部マスコミは"戦争法"などという表現を用いていますが、これは国民を愚弄していますよ。誰が好き好んで戦争をするんですか。安全保障環境が激変している現在、昔と同じで、国民の安全、財産を守れるわけがありません」

また、現在の"平成の安保闘争"の様相は、自衛隊海外派遣の幕開けとなった、湾岸戦争後のペルシャ湾への機雷掃海部隊派遣時(1991年)に酷似しているという。
「当時、反対する人たちは"自衛隊の海外派遣は軍国主義化の前兆だ"とか"アジア諸国の反発が懸念される"。あげくは"自衛隊が海外に行くと戦争になる"との大合唱でした。ただ、本当にそんなことになりましたかね。PKO派遣で、戦争になりましたか? アジア諸国から嫌われましたか? 現実は、まったく逆です。感謝の嵐で、撤退する際に、地元の有力者から部隊長が"ぜひ、うちの娘を嫁にもらってほしい"と懇願をされたこともあるくらいです」(井上氏)

防衛省関係者が言う。
「タカ派の安倍首相が戦争法を持ち出した(笑)、と報じる向きもありますが、同法制が成立しても原則、武力行使が大きく制限されていることは変わりません。そこで、任務が多様化した現在に対応できるように、武器使用基準を多少緩和するなどの改正を目指しているんです。改正後も武器使用基準は国連の標準以下。"日本の常識は世界の非常識"という状況が多少緩和されるだけです」

前出の井上氏が言う。
「そんな"当たり前のこと"をできるようにするのが、今回提出された法案です。ただ、法案が成立したとしても、まだ不十分。国土、国民を守る自衛隊の活動が大きく制限されていることには、変わりはありません」

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