岩井志麻子のあなたの知らない路地裏ホラー
好色OL殺人事件vol.1 早百合ちゃんがセピア色に…


「あの暑い日々。考えてみれば、あのときの彼はまだ人殺しじゃなかったんです」

ライターをしている涼風くんは、夏休みののどかな思い出を語るように話してくれた。

「でも今のぼくの中では、人殺しと飲んだことある、となっていますね」

涼風くんは大学生の頃、いわゆるバックパッカーとしてアジアの某国に行った。

ゲストハウスと呼ばれる安宿の一軒に泊まっていたら、そんな日本人たちが多く集まる食堂でイチさんと呼ばれる日本の男に声をかけられた。薄毛の中年だが、精神年齢は若かった。

彼は、先輩バックパッカーというより、年季の入ったアジア沈没組だった。彼らはたいてい日本で短期間の重労働をして稼ぎ、物価の安いアジアに来てビザと金が切れるぎりぎりまでいて、安酒と商売女に溺れる。そしてまた日本で稼いで……その繰り返しだ。
こうはなりたくないと思いつつ、ここでは輝いてる人なんだなイチさん、とも思った。

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