一石で四鳥を狙う強欲外交!

「あまりにも遠大な構想過ぎて、当初は欧米諸国は参加せず、絵に描いた餅に終わると見られていました。それが突如、英国が参加を表明。以後、雪崩を打ったようにドイツ、フランス、インド、さらにはロシアまでも加わり、創設メンバーは57カ国にまで膨張しました」(前出の外信部記者)

設立時の資本金は、当初の500億ドル(約6兆円)から1000億ドル(約12兆円)に引き上げられることも決定。年内の運用を目指す段取りという。
「出資比率は、中国を筆頭に、インド、ロシアと続きます。理事会は12人構成で、欧州には3枠が割り振られるようです」(同記者)

前出の小関氏は、このAIIB構想は、IMF(国際通貨基金)やADB(アジア開発銀行)に代表される先進国主導の現在の国際金融市場に「殴り込む意味合いがある」と話す。
「国際金融面で中心的立場を狙うのはもちろん、同時にドルの価値を下げ、人民元を世界的な通貨にしたいとの"通貨戦争"の一面も見え隠れします」

そこで中国は、自国の経済成長をエサに、欧州主要国を引き入れたという。
「ユーロ圏だけでの経済発展には限界が見えていることが背景にあります。G7で真っ先に参加した英国は、アジアのインフラ整備という餌(利権)に節操なく喰らいついたと見るべきでしょう」(小関氏)

一方、ロシアの場合は経済面だけを重視した参加ではないという。
「ウクライナ情勢で非難を浴びているロシアの国際舞台での復活と同時に、中露の"新型大国関係"をアピールする狙いがあるんだろう。もちろん、その先にある米国牽制という意図が見え見え」(自民党中堅議員)

中国が一石で三鳥、四鳥を狙うその裏では、参加各国間での主導権争いも勃発している。
「いくつかの国がAIIB設立準備会早々から"理事は我が国こそ適切"とゴリ押しするなど、一事が万事で、主導権争いが激化しているため、"目標としていた年内の運用開始は難しい"との声が、あちこちから聞こえている」(同議員)

そんな呉越同舟もなんのその、成り金国家・中国の"人民元外交"は、これだけではなかった。
「この5月22日、李克強・中国首相がブラジルとペルーを訪問。現地で、6兆円もの工事費用を中国が拠出しての"南米大陸横断鉄道構想"をブチ上げ、南米各国の歓心を買うことに成功しました」(在北京記者)

同鉄道は、大西洋岸のブラジル・リオデジャネイロから、アンデス山脈を通り抜けて太平洋岸のペルーまで走る総延長約5300キロにも及ぶ壮大な新幹線鉄道網構想だ。
「中国は、これで米国の"裏庭"である中南米に影響力を強めることができるうえ、豊富な天然資源にも手を伸ばすことができます」(軍事ライターの古是三春氏)

当のブラジルは経済低迷下に陥っており、
「中国との経済的つながりを国家再生に利用しようとしており、ペルーも中国経由でのアジア諸国との経済強化を目論んでいるんです」(前出の在北京記者)

"南米制覇"のために習国家主席も今年1月に中南米・カリブ海諸国共同体の閣僚級会議に出席しており、「札束で頬を張るかのごとく"(南米大陸横断鉄道を含め)今後10年間に中南米地域に2500億ドル(30兆円)を投資する"とブチ上げていました」(同記者)

中国事情に詳しい評論家の宮崎正弘氏は、呆れ顔でこう話す。
「中国の誇大妄想ぶりには、もはや付ける薬がありません。堅牢なアンデスの山々に最低でも35ものトンネルを掘って横断鉄道を作るといいますが、もしそうなら、その費用は天文学的な数字。いったい、そんな大金をどこから捻り出そうというのでしょうか? そもそも今の中国に、アンデスの固くて巨大な岩盤をくり抜いてトンネルを掘る技術など、どこをどう探したってありませんよ」

  1. 1
  2. 2
  3. 3