祖父・岸信介の遺志を継いで

続く、第2の理由だが、東アジアの覇権を狙う中国を抑え込むためだという。
特に安倍政権が注目しているのが、南シナ海だ。

南沙(スプラトリー)諸島と呼ばれるサンゴ礁は、中国のほか、ベトナム、マレーシア、台湾、フィリピンなどが領有を主張、複雑に絡み合い、"アジアの火薬庫"と言われる危険な地域。実際、6月6日には、南沙諸島を航行していたフィリピン漁船が中国の艦船から警告発砲を受け、一触即発の状況になった。中国はその火薬庫で、岩礁の埋め立てを行っているのだ。

「港や滑走路を作り、南シナ海を"中国の海"にしようという計画です」(防衛省関係者)
安倍政権は、こうした中国の動きに対し、アメリカと協力し、集団的自衛権を行使することは可能との見解を示しているのだ。

「中国軍がフィリピン船舶を拿捕するなどの事態になれば、アメリカはフィリピンとの同盟に基づき紛争に介入することになる。そうなると、アメリカと同盟国である日本は、集団的自衛権を行使し、中国を抑え込めるという目論見でしょう」(前出の民主党関係者)

ドイツ南部のエルマウ城で開かれていた主要国首脳会議で、安倍首相が中国の埋め立て行為を「放置してはならない」と発言したのも、そのためだった。

続く第3の理由が、安倍首相の祖父・岸信介元首相。岸元首相は60年に日米安全保障条約を改定して日米同盟を強化している。
「当時、安保改定に反対するデモ隊は南平台(渋谷区)にある岸元首相の自宅を包囲していました。安倍さんは、その祖父の自宅にもよく遊びに行っていました。日米同盟強化は、岸元首相の遺志を継ぐことにもつながるんです」(旧清和会関係者)

安倍政権の暴走ぶりを批判する経済アナリストの森永卓郎氏が、こう続ける。
「そもそも、安倍首相が日本の侵略行為を認めたくない理由は、岸元首相が太平洋戦争のときに東条英機内閣の閣僚の一人だったからでしょう。祖父が行った戦争は侵略ではなかった――そう思いたいというのが本音だと思います」

また、安倍首相が、国力低下に苦しむアメリカを集団的自衛権行使によって助けようとする背景には、こんな話もある。
「あくまで噂ですよ。岸元首相は戦後、A級戦犯として巣鴨拘置所に収監されます。しかし、そのあとすぐに政界へ復帰し、総理大臣にまで昇りつめました。なぜ岸元首相は、戦犯から首相になれたのか、その政治資金はどこから出たのか。戦後政治史最大の謎とも言われます。一説には、アメリカが政治資金を出していたとの話も」(森永氏)

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