現在の“火薬庫”は極東だ! 2015年 「世界の軍事力」完全分析の画像
現在の“火薬庫”は極東だ! 2015年 「世界の軍事力」完全分析の画像

安保関連法案をめぐり大揺れの今国会。安倍政権が法案をゴリ押しする理由は、極東の「軍事バランス」の激変にあり!!

「古今東西、戦争が勃発するのは地域の軍事バランスが崩れたときです。その意味では現在、"世界の火薬庫"といえるのは極東アジアだと断言できます」(軍事ライターの黒鉦(くろがね)英夫氏)

冷戦期は一触即発の時代と思われがちだが、米ソ両陣営が均衡状態にあり、にらみ合っていたため、大きな戦争は起こらなかった。逆説的だが"平和な時代"だったわけだ。
「冷戦が終わった瞬間、民族対立や宗教問題による地域紛争が頻発したのはご存じの通り。そして今、領土拡大の野心を隠さない"覇権国家"が登場したため、極東地域の軍事的緊張が高まっているんです」(同)

覇権国家とはもちろん、中国のことだ。
わが国と尖閣諸島周辺でにらみ合いを続けるかの国は、南シナ海の暗礁を埋め立て人工島を急造。そこに滑走路などの軍事施設を敷設している。
「5月末に発表された中国政府の『国防白書』には、"陸軍重視の伝統を改め、近海防衛と遠洋防護を重視する"と明記されています。これは中国が"大陸国家から海洋国家に変身する"という宣言です」(軍事ジャーナリストの神浦元彰(もとあき)氏)

これに激怒したのが、太平洋をわが海とする"海洋覇権の王者"アメリカだ。
「すぐさまカーター国防長官が、"南シナ海に人工島を乱造する暴挙を改めなければ、12海里(約22キロ)以内に米軍艦艇を進出させる"と宣言し、中国を恫喝しました」(全国紙外信部記者)

このことは中国の軍事的台頭が、看過できないレベルに達していることを意味している。
中国は約228万人という世界一の現役総兵力を誇る。軍事力分析で定評のあるGFP社は最新のランキングで、中国をアメリカ、ロシアに次ぐ世界第3位の軍事大国と位置付けている。

同社は米国議会図書館やCIA(米中央情報局)の発表したデータを基に、各種経済統計、国力情報を総合し、軍事力を算出している。参考までに、GFP社のランキングのトップ10を紹介すると、〈(1)アメリカ(2)ロシア(3)中国(4)インド(5)イギリス(6)フランス(7)ドイツ(8)トルコ(9)韓国(10)日本、以下、イスラエル、イタリア……と続く〉といった具合。

スウェーデン議会が設立したシンクタンク、ストックホルム国際平和研究所も、中国の"凄まじさ"を報告している。
「同研究所は2014年のデータとして、中国が米国に次ぐ世界第2位の軍事費を計上していると発表しています。これは世界全体の軍事費の1割以上、12%にも達します。ちなみに日本は第9位です」(黒鉦氏)

中国が日本の軍事費を初めて上回ったのは04年のこと。以降、日本の軍事費が横ばいで推移しているのに対し、中国はなんと約3倍に膨れ上がっている。保有戦車は日本の9倍の約7400両、海軍総隻数は日本の5倍の約520隻、空軍の作戦機数も日本の4.5倍の約1700機――。
「その物量のみならず"質"も飛躍的に向上しています。まだ自衛隊が有利なのはドッグファイト(戦闘機戦闘)です。空自はパイロットの練度が高く、空中で敵機を捕捉し、指揮を執る早期警戒管制機の性能も高い。それと対潜戦闘も日本有利です。中国海軍は60隻以上の潜水艦を保有しています。対して日本は現状16隻ですが、"サブマリンハンター"P-3Cと、その後継機で純国産のP-1を運用しており、中国潜水艦は脅威ではない」(黒鉦氏)

とはいえ、
「日本をターゲットとした弾道ミサイルを飽和攻撃(同時に大量に発射すること)されたら、これを防ぐ術はありません。また、戦闘前に相手のネットワークシステムを無力化するサイバー攻撃能力も、中国と日本では大きな差があります。安倍政権が安保関連法案の成立を急ぐのも、日本だけでは中国の軍事力に抗いきれないからですよ」(同)

中国も、そのことは百も承知。彼らが恐れるのは日本ではなく、"世界最強"の軍事強国であるアメリカが前面に登場することなのだ。
「中国は膨大な軍事費を使っていますが、その大半は人件費に消えてしまう。そのため十分な金を兵器開発に回せず、"ハリボテ"と酷評される粗悪なコピー品が誕生するんです」(軍事ライターの古是三春(ふるぜみつはる)氏)

こうした内情を抱えながらも、対外的には習近平国家主席の提唱する"中国の夢"を実現するため、2030年までに軍事的にアメリカに追いつくことを国家目標としている。"ポンコツ空母"を就役させ、空母打撃群を作ろうとしているのも、そのためだ。
「ただ空母を運用するには、護衛艦などの補助艦隊も必要になりますからね。予算的にも技術的にも、現段階では非常に難しいと思います」(古是氏)

進境著しい中国軍だが、米軍に勝つことは夢のまた夢のようだ。そこへもってきて、今までは"優しかった"米軍の怒りを呼び覚ましてしまった中国。
「米軍はアジア太平洋地域に陸海空軍と海兵隊を合わせ、約13.5万人の巨大兵力を展開しています。しかも、F-22ステルス戦闘機や原子力潜水艦など、世界最強の兵器を取り揃えている。さらに、横須賀(神奈川県)の米海軍第7艦隊には原子力空母『ジョージ・ワシントン』が配備されています」(黒鉦氏)

それだけではない。6月18日には横須賀に最新鋭のイージス艦「チャンセラーズビル」が入港したのだ。
「同艦は12年の近代改修により、最新のイージス・システムが搭載されています。このタイプのイージス艦をアメリカ国外に配備するのは初。さらに、17年までに2隻のイージス艦が横須賀に増強される予定です」(防衛省関係者)

中国の心中は穏やかではないだろう。追い打ちをかけるように、東南アジア諸国も動いている。
「中国と領土問題を抱えるフィリピンは、昨年4月に米軍の再駐留を認める軍事協定を締結、日本からは海保の使った中古の巡視船が供与されます。さらに、海自のP-3Cが払い下げられる計画もあります。ベトナムはロシアから高性能の攻撃型潜水艦『キロ級』を購入。中国海軍に備えています」(神浦氏)

こうした"中国包囲網"に、オーストラリアも加わろうとしている。
「豪海軍に海自が『そうりゅう』型潜水艦のエンジン技術を提供することが決定しています。近いうちに米軍を媒介にして、日豪の準軍事同盟が締結されるかもしれません」(軍事フォトジャーナリストの菊池雅之氏)

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