そんな前田が最近、意外な面を見せて私を驚かせた。2月28日、ディファ有明でおこなわれた「巌流島」の試合。なぜかこの興行を前田は見に来ていた。普通、他人の興行は見に来ないだろう。それなのに自分の方から「行くから……」と関係者に連絡した。やっぱりどんなものなのか興味があったのだろう。

見ると最前列の中央の席に前田はいた。休憩時間、その前田と私は偶然会った。あいさつする。するといきなり「逆だよな!」と言った。え? 何が逆なのか? 「ルールを決めて人を集めるんじゃないよ。その逆だよ」。はじめなんのことかわからなかった。次の瞬間、なんて頭のいい人なんだと思った。巌流島はまずルールと試合方法を実行委員会のメンバーが討論し合って決めた。それから選手をピックアップしていった。ごくごく当たり前のやり方だ。なんの問題もない。

しかし前田の考えは違う。選手を集めたあと、その中で誰がスター候補なのかを考える。それも前田の感覚で吟味する。スター候補が決まったら、その選手に有利なルールは何か? これがいい。そうだ。それに決めよう。こうしてルールは後出しで決められる。スター選手を誕生さすためだ。前田は根っからのプロデューサーだ。マッチメイカーだ。格闘デザイナーだ。前田日明という人間の秘密と謎がやっと一つ理解できた。


文◎ターザン山本
1946年、山口県生まれ。「週刊ファイト」のプロレス記者を務めたのち、ベースボール・マガジン社に籍を移す。87年に「週刊プロレス」2代目編集長に就任すると、同誌を公称60万部の黄金時代へと牽引した。96年同社退職。強烈な個性と風貌で毀誉褒貶が激しい人物。


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「新シリーズ 逆説のプロレス」(双葉社スーパームック)より引用

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