深層 2 グリコに強い恨みを抱く者の犯行か?

似たような特徴で言うと、ハウス脅迫の際、不審車両が狭い道をすり抜けて滋賀県警のパトカーを振り切ったのも然り。相当な運転技術と土地勘のある人物がいたことも想像できる。
「頭脳のある人間もいます。挑戦状や脅迫状の機知に富んだ文面は、かなり文才のある人物だと想像できます。また、あのコンビニで防犯ビデオに映った男の仕草。あれは、学者や医師、教師などの仕草に似ているんですよね」

北芝氏が着目したのは、お菓子の棚を覗き込む態度だ。商品を探すために棚を覗く場合、普通なら前屈みになるのが自然だが、
「体をのけ反らせて覗いてるでしょ。あれは、社会的地位の高い、いわゆる"先生"と呼ばれる人間に多く見られる動作なんですよ。もちろん、そうでない社会層にも、こういった動作をする人はいますが、無意識の場合に現れる心的姿勢と言えます」

さらには、脅迫電話の子供の声。これは犯人グループに未成年がいたという確証でもある。
「子供なんて、口止めできないでしょ、普通。つまり、相当密接な親子の絆を持つ家族もグループにいた可能性が高い」

そして、もう一つ驚くべき推測も成り立つ。
「警察無線の傍受もそうですけど、実は、犯人が現金の受け渡し場所に指定したのは、どこも無線が未整備の地区だったんです。それに、県を跨った犯行が多い。犯人は県警ごとの連携ができないのをわかっていたんじゃないか。特に、ハウスのときは滋賀に行ってますよね。合同捜査本部で最も発言力の弱い滋賀県を選んだ。彼らは、警察内部の構造や力関係をも熟知していた可能性がある」

つまり、警察内の極秘情報を知る人物もいたのではないかと言う。
「事件当時、警察官は徹底的な身辺調査をされていたので、犯人グループの一員が警察官とは考えづらいですが、そんな情報を入手できるための協力者がいた可能性はありますね」

腕力自慢、運転のプロ、インテリ、絆の固い家族、警察内部の事情通……これだけの精鋭が一つのグループだとは、確かに想像しがたい面もある。
「だから、そこには精鋭たちを、ごく短期間で結集できる"黒幕"も存在しているはずです。その人物がリーダー格なんでしょう」

そんな精鋭を短期間で集められるネットワークとは、いったい何か!?
ここで、北芝氏は驚くべき情報を口にした。合同捜査本部とは別行動で、極秘裏に動いていた警察の部隊があったというのだ。
「ある秘匿捜査部隊の捜査員たちがアジトを突き止めていたんです。そのアジトの隣の部屋を借りて、しばらく行動確認をしていた。ここまで肉薄していたにもかかわらず、その部隊にも、結局"ゴーサイン"は出なかったんです」

つまり、警察は犯人を絞っていたのだ。しかし、合同捜査本部の方針もそうだったように、この秘匿捜査部隊においても、職質には消極的だった。
その背景には、何があったのだろうか。
「先ほども言ったように、グリコへの配慮があったかもしれませんが、もう一つ、相手がそこまで逮捕に慎重を期さなければいけない組織だということもあったのかもしれない。間違いは決して許されない……まあ、そもそも誤認逮捕は絶対に許されないんですが、しくじったら、それこそ警察の根幹を揺るがすような背景があったと考えられます」

だから、捜査が消極的にならざるを得なかった。捜査に二の足を踏まなければいけない圧力があった?まるで刑事モノのドラマでも観ているようだ。
「犯人グループの中心は、グリコに対して非常なるルサンチマン(怨み)を抱えた集団でしょう。それも、かなり前から。たとえば、グリコの社長が先代の頃から、ずっと不遇を受けてきたんじゃないでしょうか」

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