阿修羅・原を捨て置くのはもったいなかった
――武藤敬司が「天龍さんがいなくなったら大変。本当に引退してほしくない」と語っています。武藤は天龍さんの次の「ミスタープロレス」ですから。天龍さんがいてくれると、精神的に楽なようです(引退マッチは11・15両国国技館大会)。

天龍 武藤がそんなことを言うの? 珍しいね。まだまだいるよ。藤原喜明選手とかグレート小鹿とか。藤波辰爾選手だって……。俺は自分がケガをしてみて、あれだけ膝が悪いのに、あのポテンシャルでプロレスをまとめ切る武藤敬司に「大したもんだ」と言いたい。

――天龍さんも武藤敬司も本当にプロレスが好きですよね。

天龍 プロレスなんて好きでなきゃ、やってられない。大して高いファイトマネーをもらえるわけじゃないし。自分の体を痛めて、受け身を取らなきゃはじまらないんだから。こんなデメリットのあるスポーツ、好きでなければやれない。よほどの自己愛かプロレスが好きか、どちらかだよ。

――そのレスラーがどちらか、見ればわかるものですか?

天龍 武藤は間違いなく自己愛。

――天龍さんは?

天龍 俺はプロレスが好き。相撲からプロレスにきて、はじめて花開いたのが俺だから。プロレスラーってのは「自分LOVE」でなければ、上までいけない。例えばG1で「あ、ここで俺よりもコイツが優勝したほうが、ここの観衆が喜ぶな」っていうところまで読まなきゃいけないけど、そんなことできるヤツはいないでしょ。いま、ここで俺が勝ったら「ファンが引いてしまうから」とか、いま、俺の敵方にいるコイツがきれいに俺に勝ったら「ファンが喜ぶから」って引けるレスラーなんていないよ。みんなが「俺が優勝したい」って、しょうがないヤツばっかりだから。逆に言えば、だからこそ面白いのかもしれない。

――馬場さんはどうでしたか?

天龍 昔のトップの人たちは、みんな自分が好きな人たちばかり。「馬場さんしかり、猪木さんしかり」だと思う。昔は「会社のために」と考える必要などなかった。だって、黙ってたってお客さんがその人を見に来ているわけだから。いまはプロレスが低迷しているから「会社のために」と思って、やらなきゃいけない場合もあるけど。

――亡くなった阿修羅・原さんのお話を思い出すと「天龍さんのために」という発言が多かった気がしますが?

天龍 そうなの? 俺、聞いたことないからわからない。

――原さんは、天龍さんに何度もリングに上げてもらって活躍できましたよね。

天龍 ただ、人材として「そこらへんに捨て置くのはもったいない」って気持ち。みんなが「わずらわしいから関わりたくない」って言っても、「彼がプロレス界にきたほうが面白いでしょ」っていうだけのこと。例えば、長州力が乗り込んできてガチャガチャやったら全日本は面白かったし、輪島大士が入ってきてゴチャゴチャやれば、盛り上がった。自分の業界が活気づいたほうが、やっている自分が楽しいじゃないですか。胸張って世の中を歩けるわけだし。「しょっぱい(つまらない)業界団体に身を置いている誰々です」って言う自分はイヤでしょ。

取材◎柴田惣一

徹底追跡、大特集。新日本プロレスのG1クライマックスの25年間の全事件に迫った「シリーズ 逆説のプロレス vol.2」絶賛発売中!

「新シリーズ 逆説のプロレス vol.2」(双葉社スーパームック)より引用

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